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43.ロングドライブの果てに(10)
「もしもーし」
「もしもし。義弘 、あんた、今どこらへんにいるの? もう着きそう?」
「いやいや、そりゃさすがに気が早いよ。さっきまで渋滞に巻き込まれて、腹が減ったから、サービスエリアで昼飯を食ってたんだ」
「あらそう。それで、晩ご飯までには帰って来れそうなの?」
「大丈夫だと思うよ。事故渋滞じゃなさそうだし、これ以上混まなきゃ、あと三時間もあれば、家に着くんじゃないかな」
「そんなに早く帰れる? じゃあ、ミオちゃんのために、とっておきのおやつを用意しておかなきゃだわね」
どうやらお袋は、俺たちが帰路につく間に、近所のスーパーへお菓子の買い足しに行くつもりのようだ。
「ミオちゃんは何が好きなの? おかきとか食べるかしら」
「おかきもいいけど、ミオは特に甘いものが好きだから、チョコとかクッキーで良いんじゃないかな」
「あら、ほんとにぃ。そういうところは、義弘に似たのね」
正確には似たと言うよりも、俺もミオもハナから甘党だったというだけなのだが、あえて同調しておこう。
「んで、親父は今どうしてんの? 今日も仕事?」
「お父さんの仕事は今日までなのよ。だから、遊びに行くなら明日からにしてちょうだいね」
「えぇ? 特に予定してないよ、そんなの」
きっとお袋の中では、我が子はいつまでも子供のままという意識が強いのだろう。俺がまだ小さかったころ、親父の運転する車に乗って、よくセミを捕まえに行ってたからなぁ。
「ところで義弘。ミオちゃんは今そこにいるの? お母さん、あの子の元気な声を聞かせて欲しいんだけど」
「ごめん。ミオはあいにくお手洗い中なんだ。あっちも混み合ってるから、戻ってくるまで、もうしばらくかかりそうだよ」
「なかなかうまくいかないわねぇ。じゃ、お母さんは今からスーパーに行ってお買い物してくるから、家の近くまで来たら、また電話してちょうだいね」
「うん、分かったよ。いろいろありがとう」
お袋は、「お礼なんて言わなくていいから、無事に帰って来なさい」という言葉を残すやいなや、即座に通話を切ってしまった。
慌てん坊なのか、通話料がもったいないと考えているのかは分からないが、うちの親父とお袋は、用件が済んでからの、通話終了がとにかく早い。
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