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44.子猫と大型犬(2)

「じゃあ、ボクも着替えちゃうね」 「うん。着替えが済んだら、要るものだけ持って一階に下りよう」 「はーい」  ちなみに、この帰省におけるミオの部屋着は、袖の短いプリントTシャツと、生地が薄いショートパンツである。  夏だからというのもあるが、とにかく肌の露出が多い。  シャツはまぁいいとして、下がなぁ。あまりにも薄手なものだから、パンティーラインが浮き出てしまうんだよな。  それを意識するなって言うのがどだい無理な話で、色気のあるところに視線が行くのは、健全な男子としてごく自然な条件反射で、言わば不可抗力なのである。  ミオは男の子だけど。 「洗濯物、あるなら出しておいてね。明日の朝に洗っておくから」  という、お袋の呼びかけを聞きながら一階へ下りると、居間の方から甘い香りが漂ってきた。それが何のお菓子なのかを特定するのは難しいけど、たぶんこれは、クッキーかビスケットじゃないかな。 「何だかいい匂いがするねー」 「きっとお袋が、おいしいおやつを用意してくれてるんだよ。さ、洗濯物はこれでよしと」  俺たちはさっきまで着ていた衣服を洗濯カゴに放り込み、洗面所で入念に手を洗うと、おやつが待っている居間へ直行した。 「お袋。はいこれ、おみやげ」 「あら、かわいい猫ちゃんの絵じゃない」 「それ、昼飯を食ったサービスエリアの売店で、ミオが選んだんだよ」 「そうだったの。ありがとねミオちゃん、そんなに気を遣わなくてもよかったのに」 「あの、えっと、ボクは選んだだけだから……」  お袋からお礼を言われたミオは、後ろで手を組み、申し訳無さそうにモジモジしている。  ミオの心境を察するに、おそらく、おみやげの代金を払ったのは自分じゃないのに、真っ先に感謝された事が引っかかっているのだろう。  この子は心が優しすぎるがあまり、自分の手柄も人に譲っちゃうような、典型的お人好しタイプなのかも知れないな。 「洋菓子は食わない親父でも、饅頭なら手を伸ばすだろと思って買ってきたんだ」 「それは間違いないわね。でもお父さん、洋菓子は苦手と言いながら、最近サブレにハマってるのよ」 「サブレ……?」  初めて聞いた単語だったのか、サブレが何なのか分からない様子のミオが、首を傾げつつ、俺の顔を見上げてきた。

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