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44.子猫と大型犬(3)
「サブレってのはね、まぁ平たく言うとビスケットみたいなもんだよ。つまり洋菓子の仲間だって事」
「ほとんど毎日、ごまサブレがうまいうまいって言いながら食べてるのよ。ミオちゃんはビスケットとか、クッキーは好き?」
「す、好きです」
「はは。ミオ、そんなにかしこまらなくても、普段の喋り方でいいんだよ」
「そうよ、ミオちゃん。お祖母ちゃんはね、今日スーパーで、このクッキーを買ってきたの。ちょうどおやつの時間だから、皆で食べましょ」
「……うん。ありがとう、お祖母ちゃん!」
お袋の心遣いもあって、ようやくぎこちなさが吹っ飛んだミオの笑顔は、とても眩しかった。
お袋もミオという、かわいい初孫の生の姿を見られて、とても嬉しそうだ。
その初孫がそう遠くない未来、俺のお嫁さんになるだなんて、思いもよらないんだろうな。
その話を、両親が揃った状態は当然として、どのタイミングで切り出すべきかは、非常に難しい問題である。
まぁ、少なくとも今ではない事は確かだな。せっかくお袋がクッキーを買ってきてくれたんだし、今はおやつの時間を楽しむことにしよう。
「さあさ、お腹いっぱい食べてちょうだい」
「お腹いっぱい食べたら、晩飯が入らなくなるだろ。ミオ、分かってると思うけど、ほどほどにね」
「はぁい。いただきまーす」
ミオは陶器の皿に盛られた、円形のクッキーを一口食べるやいなや、目を大きく開いて、キラキラと輝かせ始める。
「このクッキー、甘くておいしーい」
「うん、確かにうまい。この甘い香りは、バニラとバターを混ぜてるのかな?」
「そのクッキー、黒くて小さいツブツブがあるでしょ。それがバニラビーンズなのよ」
「ほー、そりゃよく香るわけだ」
「甘くていい匂いよね、これ。そっちに売ってないかも知れないし、お母さんいっぱい買ってきたから、持って帰って二人で食べなさい」
「はは……ありがとう」
どうやらお袋は気を利かせて、甘いもの好きな俺たちのために、このクッキーを振る舞うだけでなく、みやげ物としても大量に買い込んだらしい。
お袋は俺が実家へ帰る度に、あれ持って帰りなさい、これおいしいからあっちで食べなさいとか言って、いつも食べ物を持たせてくれるのだ。
自分の子供はいつまでも子供だから、かわいい我が子が腹を空かしていないか、心配していくれているんだろうなぁ。
嬉しいことだよ。
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