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44.子猫と大型犬(5)

「お、お兄ちゃん? ボク、何にも……」 「はは、分かってるよ。お袋はミオに長く居て欲しくて、話を振っただけさ」 「義弘、あんたもよ。ここ数年、ちょっと顔見せるだけで帰っちゃうんだから、たまにはのんびりしていってよ」  そこを突かれると、どうにも断りにくい。  せっかく我が子が、ミオというかわいい初孫を連れて帰ってきたのに、すぐ帰るのは親不孝かも知れないなぁ。  親父もお袋も、ミオをたくさん愛でたり、一緒に遊んだり、積もる話をしたいだろうし。 「分かったよ。じゃあ、帰るのは一日延ばす事にする。ミオ、構わないかい?」 「うん。夏休みの宿題も、あとは日記をつけるだけだから、大丈夫だよ」 「あら、ミオちゃんはお利口さんねぇ。義弘は毎年、ギリギリまで遊んでたのに」 「そりゃ小学生までの話だろ。確かに遊び回ってたけど、早朝のラジオ体操にはちゃんと通ってたから、割と優等生だった方じゃん」  自分で自分を優等生と評したのがよほど滑稽(こっけい)だったのか、お袋が肩をすくめ、両手を広げて呆れたと言わんばかりのジェスチャーを見せた。  この様子じゃお袋、絶対信じてないわ。  まぁ、夏休み中に、山奥にある川の上流で水遊びしては、びしょ濡れになって帰ってきてたのを知ってるから、無理もない話ではあるが。 「ごちそうさまでした!」  香ばしいバタークッキーを二枚食べたミオが、早々に手を合わせる。  さすがに三時のおやつとは言え、これ以上食べると、晩ご飯が入らなくなると思ったのだろう。  ミオは元々少食なので、尚更、おやつで腹を満たすわけにはいかないのである。 「ミオちゃん、もういいの?」 「うん。すごくおいしかったけど、今はお腹いっぱいで……」 「右に同じ。また明日のおやつで食べるから、保存しといてよ」 「そう。じゃあクッキーの残りは容器に移して、戸棚に入れとくわね。またお腹が空いた時に食べなさい」  お袋はそう言うと、台所から持ってきた大きな瓶へクッキーを流し込み、「お菓子」というラベルが貼られた戸棚に収納した。  クッキーは生菓子ではないからさほど傷まないのだろうが、かと言って、気温と湿度の高い部屋に置いとくのも危なっかしい。  なので、大量のクッキーを瓶詰めにして空気を遮断し、湿気の少ない場所で保存しておくのは、時期的に正しいやり方なのだろう。

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