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44.子猫と大型犬(6)
「親父は何時ごろ帰ってくるの?」
「どうかしらね。昨日から、お盆の時期は、休日前ギリギリで依頼してきたお客さんが多いから、忙しくなるとは言ってたけど」
「そっか。お盆休みは親戚とか、俺たちみたいに帰省する人が集まるから、書き入れ時なんだな」
という、俺とお袋の会話を横で聞いていたミオは、何がどうなっているのか理解が追いつかなかったらしく、まぶたをパチクリさせながら、俺たちの顔をキョロキョロと交互に見ている。
「あ。ごめん、ミオ。ぼんやりとした話になっちゃったから、何の事か分かんないよな。具体的に言うと、俺の親父は庭師 をやってるんだよ」
「にわし?」
また謎のフレーズが出てきて、疑問がひとつ増えたミオは、庭師の事を、魚のイワシと同じ抑揚の付け方で聞き返してきた。
さすがはお魚大好き子猫ちゃん、聞き間違いにもブレが無い。
「庭師ってのは、大まかに言えば、家とか施設にある庭や庭園の景観をデザイ……っと、今のは無し。庭造りをしたり、手入れをしたりする仕事なんだよ」
「ニワヅクリ? それって木を植えたりするの?」
「俺もあんまり詳しくないんだけど、それも仕事に入ると思うよ。植樹、じゃない、木を植えたりするのも、庭の見た目を彩るために必要な事だからね」
「ふーん……いろんなお仕事があるんだねー」
ミオの頭上にあるクエスチョンマークを増やさないよう、横文字や難しい言葉を訂正しつつ説明してみたんだけど、こうして噛み砕きながら教えていくにつれ、自分の中でも改めて理解や発見する事がある。
一口にデザインと言えばそれで通じるかも知れないが、具体的にデザインとは何をするのか、詳しく、かつ分かりやすく教えると、俺の方が、初めてその言葉の正しい用例を学んだような気になるのだ。
平たく言えば、勉強を教える側も、誰かに教えて初めて学ぶ事がある。そういう意味では、人とは、死ぬまで学び続ける生き物なのかも知れない。
少なくとも、俺はミオに庭師の仕事内容を説明した時点で、俺自身も庭師への理解が深まったわけだから、それはつまり、教えた側も学んだ事に相違ないのである。
学校の先生もこんな感じで、漢字の書き取りや足し算、引き算を子供たちに教えていく過程において、何らかの気付きを見つけているのかも知れないな。
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