458 / 832
45.一家団欒(1)
俺たちが昼寝から目を覚ました時には、実家の裏側から少し離れたところにある林で、ヒグラシたちが大合唱していた。
彼らの出番が来たという事は、即ち、今がもう夕方である事を意味する。
ミンミンゼミはそうでもないんだが、ヒグラシのカナカナ……という鳴き声を聞くと、情緒を感じるというか、心が落ち着くから不思議なものだ。
そのヒグラシが目覚ましになったのか、俺とほぼ同時に目を開けたミオは、お袋が寝冷えしないようにかけてくれたタオルケットに包まれたまま、ゆっくりと体を起こす。
「んー……よく寝たぁ」
「ふふ。あと十五分くらいで六時だから、だいたい二時間近く寝てた計算になるな」
「ボク、そんなにお昼寝してたの? 夜、眠れるかなぁ」
「たぶん大丈夫だよ。まだ完全に疲れが取れたわけじゃないし、夜が更けてくれば、自然とまぶたが重くなってくるんじゃないかな」
「うーん。夜にならないと分かんないけど、でもお兄ちゃんが言うなら、きっと間違いないねっ」
ミオはそう言うなり、タオルケットを羽織ったまま、俺の懐に体を預けてきた。
どうやらミオは、柚月家で使っている、ふんわりした生地のタオルケットが気に入ったようだ。
「あら。あなたたち、もう起きてたの」
俺がミオを抱き寄せナデナデしていると、食事の準備を始めていたお袋が、居間の真ん中にある大きなテーブルの上に、食器や箸置きなどを並べ始めた。
「今日はお寿司を買ってきたのよ。ミオちゃんがお魚さん大好きだって聞いてたから、お母さん奮発しちゃった」
「寿司か、いいねぇ。エンガワもある?」
「たぶんあるんじゃないの。四人でお腹いっぱい食べられるように、大きな寿司桶のを買ってきたからね」
お袋はそう答えつつ、食卓となるテーブルの真ん中に、風呂敷で包まれた、大きな円形の寿司桶を置いた。
「ミオちゃん、好きなのを食べてちょうだいね。わさび抜きが良かったら、お祖母ちゃんが取ってあげるから」
「うん! お祖母ちゃん、ありがとうー」
そういやミオは、こういう本格的なにぎり寿司を食べるのは、今回が初めてになるのだろうか。
俺がミオを我が家へ迎え入れてからは、回転寿司にも行った事がないし、商店街で買ってきたのも、もっぱら助六寿司だったからなぁ。
果たしてミオは、何のネタが一番お気に入りとなるのか、興味がわいてきたな。
ともだちにシェアしよう!