460 / 832
45.一家団欒(3)
わさびが大盛りの寿司は、主にバラエティ番組の企画で、ロシアンルーレット風に食べさせたり、罰ゲームで食べさせて、その後のリアクションを楽しむために用いられる事が多い。
そういう極端な例は、あくまでテレビ番組でやる企画だからこそ受けるのであって、まず一般家庭がやることではない。だから、テレビのノリに影響されて、真似するような事がないよう、あえて説明を省いた。
「さて、晩ご飯の献立はこれで大丈夫ね。食べるのはお父さんが帰ってきて、お風呂に入り終えてからにしましょうか」
「そうだね。この暑い中、しこたま汗を流して働いてきただろうし、まずは風呂に入りたいだろうからな」
「ただ、今は道が混んでて、お父さんが家に着くまでもう少しかかるらしいんだけど。だからあなたたち、今のうちに、先に湯舟に浸かってきたら?」
「え。俺たちが一番風呂もらっちゃっていいのかな。ササッとシャワーだけ済ませちゃおうか?」
「いいわよ、そんなの気にしなくて。しっかり湯舟に浸かって、体を温めて、旅の疲れを癒やしてきなさい」
お袋はそう言いながら、煮物やサラダなどの皿に、次々とラップを覆いかぶせていく。
確かにシャワーだけじゃ疲れは取れないだろうし、せっかく適温に沸かしてあるんだから、ここはお言葉に甘えて、じっくりと風呂に浸からせてもらうとするか。
「分かったよ、ありがとう。てなわけでミオ、お袋もああ言ってくれてるし、ご飯の前にお風呂に入っちゃおっか」
「うん。じゃあ、二階のお部屋から、替えのショーツを取ってこなきゃだね」
「ん? ショーツ?」
ミオの口からショーツという言葉が飛び出したことで、着々と晩ご飯の準備を進めていたお袋の動きが、まるで充電が切れたロボットのごとく、ピタッと止まってしまった。
「義弘、ちょっといいかしら? お母さん、あんたに聞きたい事があるんだけど」
まぁ案の定、そういう反応になるよな。いかに美形で、可憐で、行く先々にて女の子と間違われるとは言え、ミオはれっきとした男の子だ。
そんなミオがショーツを穿いている事に違和感に覚えたからこそ、お袋はミオの里親である、俺に説明を求めてきた……ってところだろう。
「ごめん、ミオ。俺、少しばかりお袋と話があるから、先に着替えを取りに行っててくれるかな」
「分かったー。それじゃボク、お兄ちゃんの下着も持ってくるね」
「ああ、ありがとう。助かるよ」
ともだちにシェアしよう!