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45.一家団欒(6)

「じゃあ、俺たちひとっ風呂浴びてくるから。行こう、ミオ」 「はーい!」 「二人とも、ボディソープとシャンプーを間違えないようにねー」     * ――およそ一時間後。  風呂場で体を洗い、湯舟に浸かって内側から温まってきた俺たちは、洗面所、兼脱衣所にあるバスタオルで念入りに体を拭き、ドライヤーで髪を乾かした。  お袋は、俺たちが風呂から上がったのを物音で察したらしく、閉まった洗面所にやって来て、戸口越しに声をかけてくるのだった。 「汗拭き用のタオルを持って出るようにね」  いかに適温とは言え、そこそこ熱い風呂に浸かってきて芯から温まった体は、熱を冷まそうとして汗を流す。  で、その汗をほったらかしにしておくと、衣類を濡らしてしまうし、ひいては湯冷めをして、それが風邪を引く原因にもなりかねない。  だからこそ、特に夏場の風呂上がりは、吹き出る汗をこまめに拭く必要があるのだ。  もちろん、ただ汗を拭うだけでは体がカラッカラになってしまうため、適度な水分補給も忘れてはならない。  ということで俺たちは、各々の汗拭きタオルを首に下げ、クールダウンのために冷蔵庫へと直行した。 「お。あったあった、お袋手作りの麦茶だ。ミオも飲み物は麦茶でいい?」 「うん。ボク、麦茶大好きー」 「そっかそっか。それじゃあ、クーラーの利いた居間で、よく冷えた麦茶をいただくことにしよう」  居間のテーブルに麦茶のボトルを置いた俺は、食器棚から二人分のグラスを確保し、なみなみと注いでいく。 「んん? ねぇお兄ちゃん。この麦茶、いつもお家で飲んでる麦茶と色が違うね」 「お、さすが。目ざといじゃん。お袋が麦茶を作る時は、ヤカンに麦の粒を入れて、しばらく煮立たせるんだよ」 「麦の粒?」 「そう。まぁ要するに、大麦の種子……分かりやすく言うとタネだな。そのタネを、自分が決めた量放り込んで、濃い味が出るまで煮立たせたら、ちょうどこんな色になるのさ」 「煮立たせるのって、どのくらいかかるの?」 「え。えーと、俺もただ飲んでただけだからよく知らないんだけど、たぶん約十分くらいじゃないかな」 「そうなんだ。麦茶をおいしく作るのも大変なんだね」  自分のうろ覚えな知識を披露した後の、ミオの何気ない一言によって、俺は今更ながら、この麦茶作りに、相当手間暇がかかっている事を再認識させられた。  まるで自分の功績であるかのように説明してはいるが、ここまでたどり着いて極上の一品に仕上げたのは、誰あろうお袋本人なのである。

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