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45.一家団欒(8)

「お水でも作れるの?」  たぶんその目には、知的探究心の旺盛なショタっ娘ちゃんが微笑ましく映っているのだろう。お袋はにこやかな表情のまま、大きく頷いた。 「ミオ。お茶を水で作る作業は、一般的に〝水出し〟って言うんだよ」 「みずだし……」 「そう。水が一杯入ったボトルに、お茶のパックを入れて一、二時間放っておくだけで作れるから、煮出すよりも楽な作り方なのさ」 「ふーん。いろんなやり方があるんだぁ」 「麦茶はどっちでも作れるけど、例えば、紅茶の種類によっては水出しができないのもあるから、よく調べて買わなきゃなんだよ」 「なるほどー。お兄ちゃん、お茶にも詳しいんだね!」  俺がミオと同い年くらいのころに、お袋から教わったお茶の知識を、補足という形で説明しただけなんだが、ミオは尊敬の眼差しでもって俺の顔を見上げてくる。  確かに知識はあるんだけども、実のところ、我が家のお茶は時短でお手軽……という二つの理由にて、ペットボトル入りの既製品にお世話になっているんだよな。  今回のように、盆休みに実家へ帰省して、手間暇かけて作った、濃厚な味と香りの麦茶を味わう機会があるのは、やはりお袋のおかげなのだ。  かような麦茶入りのグラスを両手で添えるように持ち、おいしそうに飲む様を見ていると、それだけで、ミオを実家へ連れて来て良かったなぁと思う。  赤ちゃんでも飲める麦茶はカフェインレスなので、ミオが夜眠れなくなる心配もないし、何より体を冷やしてくれるから、夏場の風呂上がりで温まった俺たちには、まさにてき面な飲み物だろう。  とは言え、よく冷えた麦茶をガブ飲みすると、頭がキーンと痛くなるし、お腹もゆるくなるおそれがある。なのでミオには、水分補給は「ちびりちびり」と「頻繁に」飲むよう教えておいた。 「そういや親父は? もう帰ってきてるの?」 「もうじきじゃないかしら。どこかへ寄り道してから帰るかも知れない、みたいな事は言ってたけど、さすがに用は済んでるでしょ」  お袋はそう答えると、食器棚からグラスを一つ取り出し、食卓の隅にそっと置いた。()りガラスで、わざとに作ってある見た目から察するに、親父が晩酌する用途で使うのだろう。  炎天下の中働き、仕事を終え帰ってきてから飲むビールは格別にうまいらしいから、たぶんその一杯を注ぐために用意したのだと思う。

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