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45.一家団欒(9)
「お祖母ちゃんの麦茶おいしーい」
俺の隣に座り、よく冷えている麦茶を少しずつ味わっていたミオの笑顔を見るに、柚月家特製麦茶の味わいと香りを、相当気に入ってくれたようだ。
「そう言ってくれて、お祖母ちゃんも嬉しいわ。ねぇミオちゃん、喉が渇いた時は、いつでも好きなだけ飲んでいいからね」
「うん! ありがとうー」
「ジュースが飲みたい時も、りんごジュースを冷やしてあるから……あら? お父さん、ちょうど帰ってきたみたいね」
親父の帰宅にいち早く気付いたのはお袋だった。玄関の引き戸が開けられた時、ピピピピピ……という電子音が鳴る装置をつい最近取り付けていて、その装置が今まさに作動したのである。
ちなみに玄関の引き戸は常時施錠してあるため、外から入るには、鍵を使って開けるしかない。
で、その鍵を持っているのは、親父とお袋の二人だけであり、今さっき電子音が鳴ったのは、帰宅した親父が鍵を使って、戸を開けたからに他ならない。
「ただいまー」
「はい、お帰りなさーい」
低音ながら、よく通る親父の声に対して、お袋が真っ先にお迎えの挨拶で応える。
「そうだ、ミオ。玄関まで、お祖父ちゃんに顔見せに行こうか」
「うん! お祖父ちゃんお迎えするー」
いつものミオは、俺が仕事から帰ってきた時、小走りで玄関までやってきて、抱きついて甘えるのが恒例行事のようになっている。
さすがに初めて会う親父にまで、そんな大胆な事はしないだろうが、遅くまで働いていたお祖父ちゃんをねぎらうという意味も兼ねて、俺はミオを連れ、真っ先に会いに行く事にしたのである。
「お帰り、親父」
「うん。義弘、道は混んでなかったか?」
上がり框 に腰掛け、マジックテープ式の作業用靴を一足ずつ脱がせている親父は、こちらに背を向けているため、ミオにはまだ気がついていないらしい。
「高速は混んでたよ。北の方にできた、新しいテーマパークに行く人たちでごった返してたからね」
「そうか。ところでミオくんは?」
「俺の隣にいるよ。な、ミオ」
「はぅ!? お、お帰りなさい。お邪魔してます」
いきなり話を振られたからか、心の準備ができていなかったらしいミオの口からは、また他人行儀な言葉が飛び出す。
その声のする方へ振り返った親父も親父で、生のミオを見た瞬間、目と口を大きく開けたまま、微動だにしなくなってしまった。
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