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45.一家団欒(13)

 そして、その毒を持つ魚の危険性に関する知識は、責任ある里親の立場でミオに教え、頭に叩き込ませてきたのだ。  これからミオが本格的に魚釣りを趣味にするなら、食べられる魚と、そうでない毒魚の見分け方をしっかり覚え、自分で処理する事を覚えなくてはならない。  アイゴはその毒魚第一弾だったってこと。 「で、話は変わるけど。今お袋のケータイに、ミオの寝顔の写真送ったよ」 「あら、ほんと。通知が来てるわ」  被写体の本人を差し置いて、親子二人で寝顔の写真の話を続けるのは何なので、ソファの隣に座るミオにも、送った寝顔の写真を見せてみた。 「ほら、見てごらん。これが今お袋に送った、ミオが寝ている時の写真だよ」 「ほんとだ。ボク、ウサちゃん抱っこして寝てるー」 「はぁ。ミオちゃんったら、ほんとに天使のような寝顔だわねぇ」  ミオのあどけない寝顔で、すっかりメロメロになってしまったお袋だが、この一枚だけのために、明日は朝っぱらからカメラ屋へ現像しに行くらしい。  まぁ親父も、アルバムに挟まれたミオの写真を眺めるのがもっぱらの楽しみらしいし、こういうのは早ければ早いほど良いのだろう。 「そういえばミオちゃん。このうさぎのぬいぐるみは、今日も持ってきているの?」 「そだよ。ウサちゃんはボクとお兄ちゃんの子供だも……あっ!」  二人にとっての思い出のおみやげである、ロップイヤーなウサちゃんのぬいぐるみ。  そのウサちゃんが俺たちとどういう関係なのか、気の緩んだミオがうっかり喋ってしまい、慌てて両手で口を覆ったものの、気付いた時には遅かりき。  ついさっきまで、微笑ましく写真を眺めていたお袋は突如として目の色が変わり、眉をしかめて、俺に厳しい視線を投げかけてきた。 「義弘。このウサギちゃんがあなたたちの子供って聞こえたけど、どういう意味なの?」 「え!? えーと、そのぉ、何と言うか」  ダメだ。状況があまりにも突然すぎて、その場凌ぎの言い訳が思いつかない。  いや、その場を凌ごうとするのがもうダメなんだ。それはすなわち、自分の親に嘘をついて、結果として俺とミオの恋愛関係を否定する事になるのだから。  そんなの、誰も幸せになれないよ。  幸せになれないけど、じゃあ、一体どう説明すれば、お袋は納得するんだ?  やましい事なんてこれっぽっちも無いはずなのに、俺は心のどこかでブレーキを踏んでしまっていて、真実を話す勇気が出てこない。

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