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45.一家団欒(14)

「義弘。どうしてそこで言葉に詰まっているの?」 「いや、言葉に詰まったというか、あまり深い意味は無いというか」 「深い意味が無いなら話せるでしょ。どういう事なのか、お母さんにきちんと説明してちょうだい」  俺とお袋によるウサちゃんの問答は、もはや普通の会話ではない。俺がごまかそうとすればするほど、お袋の語気が強くなっていく。  そして――。 「お祖母ちゃん、ごめんなさい! さっきのは、ボクが言い間違っちゃったの。だから、お兄ちゃんを叱らないで……」 「ミ、ミオちゃん……」  目にいっぱい涙を溜めたミオは、俺をかばおうとして、まるで懇願するよう、お袋に訴えかけた。  写真一枚でかわいい孫を泣かせてしまい、罪悪感に(さいな)まれたからか、お袋の俺に対する追及が止まる。  この淀んだ空気の中で、ここにいる全員は今、きっと同じ事を思っているだろう。 「こんなつもりじゃなかったのに――」  楽しい一家団欒を迎えるつもりだった居間では痛いほどの沈黙が続き、俺もお袋も、口を開こうとしなかった。  か弱いミオの涙声は俺の心に突き刺さり、その心の奥底から湧き出してきた申し訳なさが、胸をきゅうっと締め付けていく。  おい! 俺!  こんなことでいいのか!?  必死の思いで俺を守ろうとして、勇気を振り絞ったミオを、今まさに見殺しにしようとしているんだぞ。そんなの、彼氏のやることじゃないだろ!  確かに当初の目論見では二人の交際について、親父とお袋からは、時間をかけて理解を得ようと思っていた。  それがすでに間違いだったんだ。  年の差とか同性とか関係なく、俺はミオという人間を愛している。その気持ちが嘘じゃないなら、堂々と胸を張れるはずだ。  今の今こそ、心から好きになった人を守る時じゃないか。  なけなしでもいい。勇気があるなら振り絞れ! 「正直に話すよ、お袋。さっきの、ぬいぐるみの件は言い間違いじゃない。ウサちゃんは、正真正銘俺たちの子供なんだ」 「お、お兄ちゃん!?」 「いいんだよ、ミオ。今まで、気を遣わせちゃってごめんな」  俺は首に巻いているタオルの端で、ミオの涙を拭い、そしてお袋の方へ向き直した。  二人のやり取りを黙って見聞きしていたお袋は、何かを察したのか、今では困惑の色も消え、神妙な面持ちに変わっている。

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