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45.一家団欒(22)

「ところでミオちゃん。お寿司では、何がお気に入りかしら?」  再び箸を持ち、温かい煮麺(にゅうめん)をすすり出した親父を横目に、お袋が会話の軌道修正を図る。 「うーん。お寿司の種類ってそんなに詳しくないけど、さっき食べた、ネギが乗ってたのがおいしかったかなぁ」 「ネギ?」 「軍艦巻きにしたネギマグロの事だよ、お袋。ミオは海鮮丼でも、マグロがお気に入りなんだ」 「あら、そうだったの。ミオちゃんは魚が好きだって聞いてたから、今日はお寿司にしたんだけど、マグロの握りが入ってて良かったわ。たくさん食べてね」  お袋はそう言うや、マグロの握りを取りやすいよう、寿司桶をミオの方へそっと寄せた。 「ありがと。じゃあ次は、たまごのお寿司をいただきまーす。マグロはその次ねっ」  はは、今更だけどマイペースな子だな。その天真爛漫さが、ミオのいいところなんだけど。  ミオは、海苔で卵焼きを巻き付けた握り寿司を取り皿に乗せると、醤油にはつけずに、少しずつ、味わいながら食べ進めていく。  ミオはまだ子供だし、生い立ちの事もあるので、寿司とその食べ方にはほとんど馴染みがない。ましてや生まれつき少食な子だから、俺の親父みたいに、寿司一貫を丸ごと口の中に放り込むという発想がそもそもない。 「たまご、甘辛くておいしいねー」 「ちょうどいい味付けだろ? わさびも抜いてあるから、ミオみたいな小さな子にも人気のネタなんだよ」 「そうなんだ。でも、このたまごって魚の卵じゃないよね」 「まぁ、まごうことなき鶏の卵だな」 「どうして、そのニワトリの卵がお寿司になったのかな?」  さすがは目のつけどころが鋭いショタっ娘ちゃんだ。  初めて寿司を食べる人にとって、シャリの上に乗せてある鶏卵はひときわ目立つので、なぜネタとして採用されたのか、疑問に抱くのは至極自然な事だろう。  その件については、知的探究心に溢れるミオも、やはりご多分に漏れなかったわけだ。  一般的に、たまご寿司に使う鶏卵は、寿司屋では玉子の玉から取って音読みし、「ギョク」と呼ばれる。  で、そのギョクをなぜ寿司屋が焼いて、寿司ネタとして出すようになったのか……というのが、今回ミオが知りたい事である。 「そうだなあ。卵焼きを酢飯に乗っけた理由はいろんな説があるから、これだ! って決め手になるものは無いんだけど、一つは〝口直し〟を目的にして作ったって話があるよ」 「クチナオシ?」  口直しという言葉がよほど聞き慣れないのか、何語なのか分からないといった様子のミオが、首をひねって聞き返してきた。

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