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45.一家団欒(23)

「口直しって言うけど、決してそれまで食べていたネタが悪い、とかいう意味じゃないんだ。最後に甘い卵焼きの寿司を食べる事で、シメ……もとい、おしまいにする意味合いがあったらしい」 「んー? それって、ご飯の後にデザートを食べるみたいな感じ?」 「まぁ、似たような感じじゃないかね。ただ、握り寿司の歴史を紐解くと江戸時代にまで遡る事になるんだけど、これだ! という文献もほとんど残っていないから、口直しがほんとの理由だとは断言できないんだよ」  俺たちの話に耳を傾けていたお袋が、うんうんと頷いている。その様子を見るに、どうやらお袋も、卵の寿司が口直し云々といった逸話を知っていたようだ。 「ふーん。でもそのお話だと、デザートがたまごのお寿司になるんでしょ。ケーキとかじゃダメだったのかな?」 「はは。江戸時代にケーキはまだ無かったからなぁ。もう少し前には、ポルトガルから来た人がカステラを持ち込んだみたいだけどね」 「あ! カステラならボクも知ってるよー。黄色いお菓子で、下の部分にザラメが付いてるんだよね」 「そうだな。ミオ、よく知ってるじゃん」 「施設にいた時、先生が長崎県に行った時のおみやげだよって言って、食べさせてもらった事があるの。だから知ってるんだよ」 「へぇー長崎か。その先生も、ずいぶん遠いところまで行ったもんだねぇ」 「んーと。その時は、施設を良くするための勉強会があるから、飛行機で行ってきたって言ってたような気がするなぁ」 「言わば研修会みたいなもんか。施設の運営も大変なんだな」  ミオが言う施設とは、児童養護施設の事。まだ二歳だったこの子が捨て子にされ、俺が我が家へ迎え入れるまで、同じような境遇の子供たちと一緒に暮らしていた施設である。  ちなみにその施設では、ミオの誕生日には、後に大好物となるチーズケーキを食べさせてもらっていたらしい。教育には厳しい施設だったそうだが、食に関しては、割と柔軟なところもあったようだ。  余談になるが、ミオの着ている衣服や女の子向けであるショーツなども、施設の園長先生が好きなのを選ばせてくれたという。  そういう話を聞くに、たぶんミオがいた児童養護施設では、教育と衣食住で、硬軟をうまく使い分けていたのだろう。

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