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45.一家団欒(24)
「ところでミオくん、ちょっといいかな」
まだほかほかの湯気が残る、空になった煮麺のお椀を置いた親父が、話の腰を折らないタイミングを見計らい、ミオに声をかけた。
「ん? なぁに? お祖父ちゃん」
美少年を通り越して、もはや美少女顔という表現こそがふさわしいミオ。
その美少女系ショタっ娘ちゃんが、にこやかに親父の方を向くと、声をかけた当の本人は、突如として鼻の下を伸ばし、後ろ頭を掻きながら、デレデレし始めた。
お袋がその様子を見ていたら、何らかのジェラシーを抱いた事だろうが、ミオの里親である俺としては、分からない話じゃないんだよな。
何せミオは、親父にとっての初孫だし、かつ、性格は素直でしぐさも愛らしいもんだから、きっと『目に入れても痛くない』くらいかわいく見えるのだろう。
もっとも、まかり間違って、ミオのことを異性として意識していなければ、という条件はつくが。
「あ、あの。えっとな。ミオくんは、花火は好きかい?」
「んー? 花火?」
花火については、先日二人で話したから聞き慣れない単語ではないし、花火そのものを見たこともあるのだが、ミオは唇に人差し指を当て、視線を斜め上に向けて、何やら考え込みだした。
「花火って、お空に打ち上げるやつのこと?」
「いや、そんなに規模の大きいものじゃないんだ。うちの縁側にある庭で遊べるくらいの、お手軽な花火セットを買ってきてね。ミオくんさえ良かったら、この後、皆で一緒に遊ばないかい?」
「あ! それって、手に持って遊ぶ花火のことだよね?」
「そうだよ。お祖父ちゃんは今日、仕事の帰りに、知り合いのおもちゃ屋さんに寄って、いっぱい遊べる花火セットを買ってきたんだ」
なるほど。親父の帰りが少し遅くなると言っていたのは、花火を買いに寄り道していたからなのか。
「ありがとう、お祖父ちゃん。えへへ、お兄ちゃんの花火もあるから、今日は思いっきり遊べそうだね!」
という、ワクワクが抑えきれないミオの返事を聞き、今ひとつ状況が把握できていない様子の親父は、口を半開きにしたまま、視線を俺の方に向けた。
「義弘の花火? つまりどういう事だ?」
「ははっ。いや、実は俺たちもさ、いつも通う商店街で、花火セットを買ってきちゃったんだよね」
「そうだったのか。そう言や、子供の時のお前も、花火が大好きだったな。お父さん、めいっぱい買ってきて、勇み足しちゃったよ」
「そんな事ないよ、親父! ミオと俺のために、素敵な花火セットを買って、心ゆくまで遊ばせてくれるつもりだったんだろ? 勇み足だろうが何だろうが、とても嬉しいよ。ほんとにありがとう」
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