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45.一家団欒(29)

 なるほど、そこまでは考えが至らなかった。  お袋があえて俺や親父ではなく、ショタっ娘ちゃんのミオを例に挙げたのは、着ている衣服の布面積が小さいからだろう。  刺されそうな部分が多く露出しているミオだからこそ、予防と処置のための薬は必須なのである。 「よし、虫刺され対策のグッズはこれで揃ったと。んじゃ花火しに行こっか」 「うん。あっ、でも先に、洗い物のお手伝いを――」 「ふふふ。良い子のミオちゃんならそう言うと思ったわ。洗い物は、スイカを切った後にまとめてやっちゃうから、先に行って遊んでらっしゃい」  お袋は柔和な笑顔でミオの頭を優しく撫で、親父が先に花火の準備している、縁側の方を指し示した。 「ありがとうお祖母ちゃん。それじゃ行ってくるね」 「はい、行ってらっしゃい。火傷には気をつけるのよ」  ミオはお袋の言葉に大きく頷くと、蚊取り線香の缶缶を大事そうに抱え、縁側に続く廊下へと消えていった。 「義弘。今更だけど、ミオちゃんはとても優しくて、素直な良い子ね」 「うん。そんなミオだからこそ、ますます分からないんだ。どうして捨て子にされなきゃならなかったのか……」 「そうね。いろんな事情はあるかも知れないから、頭ごなしに文句は言えないけれど、だからって、かわいい我が子を置き去りにしていい事にはならないわよ」  その穏やかな表情からは察知できないが、お袋の語調には、明らかに怒りの感情がこもっていた。 「もしも捨て子にされなかったら、俺たちはミオと出逢うことは無かったのかも知れない。……百歩譲って、そういうプラスでものを考えたとしても、とても許される話じゃないよな」 「ええ。子供にとっては、実の両親のもとで育っていくのが、最も幸せなはずよ。それとも、これは一般論として片付けられてしまうのかしらね」 「分からない。だけど一つ言えるのは、俺は俺なりにミオを愛して、これ以上無いくらいに幸せにしてあげるつもりだって事だよ」 「頼んだわよ、お兄ちゃん。わたしもお父さんも、できる限りサポートするからね」 「うん。ありがとう」  ミオを捨て子にしようと決めたのは、産んだ母親か、もしくは父親か、あるいはその両方か、俺たちには分からない。  経済的な理由か、夫婦間の(いさか)いか、そういった事情も知らない、まだ物心もつかないうちに、ミオは捨て子にされてしまった。  そんな辛い過去を背負わされて生きてきたミオだからこそ、俺たちはでき得る限りの愛情を注ぎ、幸せにしてあげたいと思うのである。  その一環として、今日はミオの人生初となる、手持ち花火で遊ぶ事にしたのだが、親父が買ってきた大容量の花火セットには、一体、どんなお楽しみが詰まっているのか――。

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