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46.花火で遊ぼう!(2)

「親父、火を点け終わったらマッチ貸してくれる? 蚊取り線香にも火を点けたいんだ」 「いいぞ。ほら」  風防のウインドスクリーンに囲まれた、一本のろうそくに火を入れ、地面に固定した親父は、これまた大容量のマッチ箱を差し出す。  その箱の表面には、四角い枠の中に赤文字で、大きく「お徳用」と書いてあった。 「またでかいマッチを買ってきたなぁ、親父」 「湿気にさえ気をつければ、長く保存がきくからな。ちなみにそれ買ったのは二年前だぞ」 「七百本入りを二年前に? んで何本使ったの?」 「そんなの覚えとるわけないだろ。ほとんど、仏壇のろうそくに火を(とも)すくらいにしか使ってないんだよ」  そう答える親父は、酒こそ好きだが喫煙者ではなく、親父が勤める庭師も、基本的にマッチを使うような職種でもない。つまり、家の内外で物を燃やす機会は滅多にないということだ。  そんな親父なだけに、こんなにたくさん入ったマッチ箱を買ってきた理由が「保存がきくから」だけだというのは、多少大ざっぱに聞こえるのである。  まぁ、だからと言って、着火用の大きなライターを長期間放置しておくのも、燃料の気化、つまり蒸発に繋がるかも知れないので、マッチを選んだ親父の判断はベターだったのだろう。  たぶん。 「スナックとかで紙マッチは貰わなかったの?」 「バカ言うな。そんなの貰った日にゃ、おれが母ちゃんにどやされるだけじゃないか」  スナックには行ってないと否定しなかったのを察するに、その頻度こそ分からないが、おそらく何度か通っているのだと思われる。  もっとも、こんな田畑だらけのド田舎に住んでたら、酒好きな親父にとっては、晩酌しながらテレビを見るか、場末のスナックで遊ぶくらいしか楽しみが無いんだろうな。 「よし。それじゃあ蚊取り線香を焚くとするか」 「わぁ。初めて見たけど、蚊取り線香ってこんなぐるぐる巻きなんだねー」  蚊取り線香の入った缶缶を開け、その独特な形状を目にし、興味を惹かれたミオが、驚きの声を上げる。 「たぶんひと巻きで長く使えるようにと、よく考えられた結果がこれなんだろうな。普通の細長いお線香を模して長くしすぎると、途中でポッキリと折れちゃいそうだから」  俺は自分が思いつく限りで、蚊取り線香がうず巻き状になっている理由を推察してみたのだが、それを聞いて何度も頷くミオを見る限り、おそらく似たような考えを抱いていたのだろう。

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