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46.花火で遊ぼう!(5)
俺は慎重なミオの視線を背中に感じつつ、火が灯され、風防のスクリーンで囲まれたろうそくの先に、手持ち花火のヒラヒラを近づけ、燃やし始める。
火が点いたのを確認してろうそくから離れると、ヒラヒラはあっという間に燃え上がり、火薬が詰まった花火の本体にまで達した。
さあ、これからが手持ち花火の本番だ。
導火線の役目を果たしたヒラヒラから、火薬に火が燃え移ったその瞬間、シュオーッと言う音を立て、筒の先端から緑色の火花が勢いよく吹き出し始めた。
「わぁ。綺麗だね!」
「だろ? で、こうやって人のいない方を向いてさ、軽く手を伸ばして、火花が体の斜め下へ飛ぶように持てば、安全に遊べるってわけ」
「なるほどー。斜め下なら、つま先を火傷しちゃう心配がないもんね」
縁側から庭へと出たミオがつま先を気にしたのは、お袋が予め買って並べておいた、子供用のサンダルを履いているからだろう。
さすがに靴下と、よそ行きの靴を履いて花火を遊ぶのは面倒な事この上ないから、お袋が気を利かせてくれたのだと思う。
「ボクもやってみていい?」
「もちろんいいよ、一緒に遊ぼう。ヒラヒラに火がついて、筒の方まで燃えてきたら、こっちにおいで」
「はーい」
ミオは元気良く返事をすると、火をゆらめかせて燃えるろうそくの前でかがみ込み、筒に取り付けられたヒラヒラを慎重に近づける。
「あ! ヒラヒラが燃えたよ、お兄ちゃん」
「じゃあ、一旦ろうそくから離れて、しばらく待ってみてごらん」
「ろうそくから離れる……こんな感じでいい?」
ミオはかがみ込んだまま体の向きを変えると、ヒラヒラが燃えるさまを、真剣な表情で見守り始めた。
「そうそう。まれに、ヒラヒラだけ燃え尽きて、火薬まで火が届かない時があるから、様子見をするんだよ」
「うー。大丈夫かなぁ」
初めての花火がうまく遊べるのか、心配でたまらない様子のミオを見ていた親父は、俺の方へ歩み寄ると、ニヤリと口角を上げた。
「ミオくんの初々しさを見てると、義弘が小さかったころを思い出すな。お前は『ドラゴン』が好きだったから、仕事終わりによく買ってきたもんだ」
「懐かしい話だなぁ。花火のドラゴンなんて、かれこれ十何年ぶりに聞いたんじゃないかな」
「何だ? 元カノがいたのに、あっちじゃ花火で遊ばなかったのか?」
「は!? な、何言ってんだよ!」
俺の現在の〝彼女〟である、ショタっ娘のミオに聞こえそうな距離だというのに、涼しい顔して元カノの話を持ち出す親父の、このデリカシーの無さはどうにかならないものか。
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