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46.花火で遊ぼう!(6)
幸いなことに、火薬に点火するか否かに集中しているがあまり、今の話はミオの耳に届かなかったようだが、さすがに一言添えておいた方がいいだろう。
「親父さぁ、ミオのいる前で元カノの話はご法度だって。あの子が聞いてたら、俺がめちゃくちゃ問い詰められるんだから、金輪際やめてくれよな」
「ほー、そんなにか。ミオくんは妬いちゃうタイプなんだな」
「そりゃ恋人からしたら、元カノと遊んだ話をされても、まずいい気分はしないだろ。試しに、俺がお袋の前で、ミチ子さんの事を喋ってやろうか?」
「あっ! そ、そりゃいかん! 分かったからやめてくれ」
慌てた様子で両手を突き出し、左右にブンブンと振る親父の反応を見るに、お袋がいる前で、ミチ子さんの話をされるのは相当困るらしい。
ちなみにミチ子さんとは、十数年前、親父が足繁く通っていたスナックにてママを務めていた女性の事で、親父が常連客になって入れ込むほどの美人だったそうだ。
ところがある日。ミチ子さんから貰った、キスマーク付きのツーショット写真をうっかりお袋に見られた親父は、尋常ではないほどの大目玉を食らい、相当へこんでしまった。
その日を境に、親父はスナック通いを控え……られず、今でもこっそり遊びに行っているんだそうだ。
さすがにミチ子さんは引退したという話なので、今の親父は女性よりも、酒とお店の雰囲気を楽しみに通っているのだと思われる。
「わ! 火花が出てきたよー。えっと、確か斜め下……でいいんだよね?」
ミオが持っていた花火の筒から、緑色の火花が飛び出し始めたのを見て、俺は、軽くパニックを起こしかけているミオのもとへと駆け寄り、そっと頭を撫でた。
「うまく火が点いたね。そのまま地面の方へ向けて、燃え尽きるまで眺めて遊ぶんだよ」
「ごめんねお兄ちゃん、一緒に遊ぶつもりだったのに、ボクだけ遅くなっちゃった」
「ははは。そんなの気にしなくていいって。花火はたくさん用意してあるんだから、いろんなやつをじっくり遊んで楽しもうよ」
「うん。ありがとう」
ミオはかがみ込んだ姿勢を維持しつつ、花火からほとばしる緑色の火花をうっとりとした様子で眺めながら、隣で腰を落とした俺の腕に、頬をこすりつけて甘えてきた。
元カノだったあの女性とは、こんないい雰囲気には一切ならなかったから分からないけど、きっとこれが、恋人と遊ぶって事なんだろうな。
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