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46.花火で遊ぼう!(23)

 そこには触れず、まるで他人事のように、白々しい返事をしたのがよほど引っかかったのか、ミオは(いぶか)しげな目つきで、俺の顔を見上げてくる。 「お兄ちゃん。〝落とし物〟って、もしかして猫ちゃんのおトイレって意味じゃないの?」 「え! あー、やっぱり分かっちゃった?」 「分かるよぉ。だって、猫ちゃんに関係があってにょろーんと伸びるのって、おトイレ以外に思いつかないんだもん」 「そっか、ごめんな。隠すつもりはなかったんだけど、あんまり直接的な表現で教えたら、ミオが気分を悪くしちゃうかと思って……」 「ボクに気を遣ってくれてたの?」 「うん。ミオはたった一人の、大切な彼女だからね」  俺がそう言い終えた直後、〝彼女〟であるミオは俺に抱きつくや否や、みぞおちの辺りに横顔をうずめてきた。 「ミ、ミオ!?」 「ありがとう。いつも優しくしてくれるお兄ちゃん、だーい好きだよ!」  ははは。いや、どうにもまた、参っちゃったね。  花も恥じらう可憐なショタっ娘ちゃんに、ドが付くほどの直球で「好き」と言われて、嬉しくない奴がいるものなのだろうか。  少なくとも、俺はもう、とにかくミオが可愛くて愛おしくてメロメロで、親父たちが見ている前じゃなければ、とっくに抱き締め返している頃だ。  一方、外縁で涼を取るためにうちわを扇いでいたお袋は、ミオの甘えっぷりか、二人のイチャつく様子か、あるいはその両方かも知れないが、とにかく俺たちのやり取りの一部始終を、微笑ましげに眺めていた。  ……ところで。  あらかじめ断っておくが、俺は決して、猫ちゃんの「落とし物」を汚らわしいとか、気持ち悪いと言いたいわけではない。この世に生きとし生ける動物にはほぼ全てに、生理現象がある。それを見て見ぬふりはできないだろう。  さらに付け加えるならば、ヘビ花火を、そうやって猫の生理現象に見立てて商品化した事業を否定するつもりもない。むしろ画期的で、面白いアイデアだと思う。  ただ、それはあくまでも俺個人の意見であるので、ミオに直接的な名称でもって伝えるのが、どう影響するのかは分からなかったのだ。  だから、実際にヘビ花火が伸びる様子を見て、連想する事で察してもらおうと思ったのである。  という配慮が、俺なりの優しさだと受け取ったミオは、嬉しくなって抱きついてきて、親父とお袋が見ている前で、はばかることなく愛の言葉を伝え、そして現在に至る。

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