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46.花火で遊ぼう!(24)

「おーおー、優しい事を言うなぁ、義弘。お前にしては上出来じゃないか」 「あら。お父さんたら、義弘の事を冷やかせる立場かしら? あの子が想い人に優しいのは、あなたの血をしっかり受け継いでいる、何よりの証拠でしょ」 「うぐっ!? か、母ちゃん……」  親父は、ヘビ花火の別名をめぐり発展したミオとのイチャつき具合を見て、息子の俺を(はや)し立てようと思ったらしいが、隣で聞いていたお袋の援護射撃にて、即座にやり込められてしまったようだ。  ああいう話を聞くに、親父とお袋がまだ若く、二人が恋仲だった頃は、親父はさぞや、彼女だったお袋に優しく接していたんだろうな。 「そういや血は争えないんだったね、親父」 「う、うるせーやい」  お袋に恋していた、かつての自分を掘り返され、息子にまでからかわれ、もはや返す言葉も思いつかない様子の親父は、小っ恥ずかしさで顔を真っ赤にするばかりだった。  その優しさが、親父が一時期入れ込んでいた、スナックのママだったミチ子さんに向けられていたら洒落にならなかったのだろうが、そこはさすがにお袋一筋らしい。  一方、そんな色恋沙汰の会話もどこ吹く風のミオは、俺に抱きついたまま、頬ずりして甘え続けている。  その甘えっぷりをあえて動物に例えるならば、警戒心を覚える前の子猫といったところか。  児童養護施設で育てられていた時、自分が捨て子だった事を知らされ、心を閉ざしてしまったミオが、ここまで気を許しているのは、やっぱり相手が俺だからなのかな。  何しろ、縁結びの神社へ通った時、大きな声で、「お兄ちゃんと結婚できますように」ってお願いしたくらいの惚れ具合だからね。  かように一途なミオに惹かれていって、相思相愛の仲まで行き着き今日に至るわけだが、それも時間の問題で、遅かれ早かれ通る道だったのかもなぁ。 「なぁミオ。ヘビ花火はまだ残りが何個かあるけど、全部遊んでみる?」 「んー。ヘビ花火がにょろにょろするのは見られたから、もういいかなぁ。すりすり」  ミオは俺の問いかけにそう答えながら、擬音つきで頬ずりを続ける。 「じゃあヘビ花火の残りは、ロケット花火と一緒にしまっておくか。また明日の夜、気が向いたら遊ぶって事で」 「そだね」 「他にはどんな花火があるのかな? 置き花火だと、俺が子供の時は『ドラゴン』が定番だったんだけど」 「んん? ドラゴンってどんなの?」  俺の話を耳にしたミオが、突如として頬ずりを止めた理由(わけ)は、おそらく、置き花火の名前がドラゴンだとは聞いたものの、火花の噴き出し方の想像がつかず、考え込むモードにスイッチが入ったからだろう。

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