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46.花火で遊ぼう!(25)

 ちなみに俺はドラゴンを始めとする、設置型の花火を全部ひっくるめて『置き花火』と呼んでいる。  ただ、置き花火の中には別名というか、むしろそっちの方が一般的なのかも知れないが、『噴き出し花火』として分類される事もある。ドラゴンは、そんな噴き出し花火の代表的な存在で、俺が生まれる前から愛されてきたロングセラー商品だ。 「分かりやすく言うと、火薬を詰めた箱を地面に置いて火を点けたら、上に向かって勢い良く火花を噴き出す花火でね。ドラゴンは、そういう花火の商品名なんだよ」 「そうなんだー。でも、どうしてドラゴンって名前なの?」 「え……そういや何でだろう。ドラゴンは今まで何度も遊んできたけど、名前の意味までは、一度も考えた事は無かったなぁ。親父、分かる?」  俺と同じように、子供の頃におもちゃ花火を遊んでいた親父なら、製造元が噴き出し花火に『ドラゴン』と名付けした理由に関して、何かしらの情報を持っているか期待を寄せたのだが、存外素っ気ない返事が帰ってきた。 「さぁ? あの花火は、おれがガキの頃にも出回っててよく遊んだもんだが、誰も商品名の意味は知らなかったな。大方(おおかた)、噴き出す火花を昇り龍に見立てたとか、そんな理由じゃないのか」 「なるほど、昇り龍ね。だからドラゴンって名付けたのかも」 「あくまでおれの推測だから、何とも言えんがな。ただ、花火だろうが何だろうが、名前にインパクトがありゃ売れるし、良い商品なら長く愛され続ける。それだけのことよ」  本来の意味こそ知らないものの、ドラゴンと名付けた理由を自分なりに考察した親父は、お袋にうちわで扇いでもらいながら、いかにも涼しい顔で、グラスに注がれている麦茶を飲み干した。 「という事だよ、ミオ。何でドラゴンって名が付いたのか、ほんとのところは分からないけれど、親父が言ったように、たぶん龍が天に昇っていく様子を、花火で表現したかったんじゃないかな」 「ふーん。花火って、面白い名前の付け方をするんだね」  俺に抱きついたまま、一緒に親父の考察を聞いていたミオは、昇り龍に心を踊らせた……というような事はなかったが、とりあえずそういう感想を述べることで、自らを納得させたようである。  知的探究心の強いミオが、ドラゴンの由来についてそれ以上何も尋ねてこなかった理由は、無数あるおもちゃ花火のネーミングについて調べてみても、その意味や意図がハッキリしなければ、自分の知識として身につかないと判断したからだと思われる。

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