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46.花火で遊ぼう!(26)

 かような反応から推察するに、おそらくこの子は、(なにがし)であった怖い話だとか、某店がミミズの肉でハンバーガーを作っている……みたいな都市伝説の(たぐい)にみられる、信憑性(しんぴょうせい)がゼロに等しい話題にも、全く興味を示さないタイプなのだと思われる。  裏が取れない、眉唾ものの噂話に好奇心を掻き立てられないのは俺も同じだし、リアリストという意味では、ミオと俺は同じ考え方をしているのかも知れない。  でも、この子はサンタクロースが実在すると信じているし、スレた大人の俺よりは、まだ純粋な部分がたくさん残っているんだろうな。 「まぁあれだ。ドラゴンの意味は、たぶんそんな感じだということにして、似たような置き花火が無いか探してみようよ」 「うん」  俺とミオは、花火セットが詰まった袋を囲むようにしてかがみ込み、置き花火、あるいは噴き出し花火を探し始める。  子供の頃に遊んでいた噴き出し花火は箱状か、あるいは丸い筒状で、倒れないように底面だけワイドに作ってあるものが主流だったのだが、今でもそうなのだろうか。 「ねぇねぇお兄ちゃん、これなぁに? 真夏の何とかって書いてあるけど……」 「ん? どれどれ?」  ミオが袋の奥底から取り出したのは、ドラゴンのフォロワーなのか、高さが十センチ少々で、色鮮やかだが、ありふれた箱型の噴き出し花火だった。  で、その箱の側面には分かりやすいように、花火の名前が大きく書いてある。ただ、どうやらミオには、まだ読めない難しい漢字で(つづ)っていたらしい。 「えーとな。これは『真夏の黄昏(たそがれ)』って書いてあるんだよ。ちなみに黄昏ってのは、夕暮れとか日が落ちた後、夜になる手前のってとこかな」 「へぇー。じゃあ、この花火の名前って、暗くなってきてから遊んでねって意味で付けたのかな?」 「たぶんそうじゃないか? あるいは、ただ語感というか、響きが良いくらいの、単純な理由かもね」 「なるほどー」  そう言って両手を合わせ、数回頷いたミオは、自分の意見よりも、俺が適当に考えた仮説の方に納得したようだ。  実を言うと、黄昏という言葉は、「盛りを過ぎ、終わりへ近づく頃」、あるいは「衰退する頃」という、うら寂しい意味で使われる事もある。  この花火を作った業者さんが、何を考えて黄昏なんて名付けをしたのか、俺に知る術は無い。もしかすると、夏の終わりを意味して付けた可能性だってあるわけだが、どちらにせよ推測の域を出ないのである。

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