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46.花火で遊ぼう!(27)

 ただ現在は、人生初のおもちゃ花火を目一杯楽しんでいるミオに対して、そんなしんみりとする話を聞かせるような場面ではない事くらいは心得ている。だから俺は、あえて黄昏の意味を全て答えなかった。  同僚の佐藤あたりにこの話をすると、大人の浅知恵だと呆れられるかも知れないが、保護者であり彼氏でもある俺としては、かわいいミオの笑顔をできるだけ長く見ていたい。ただ、それだけなんだ。 「お兄ちゃん、このタソガレってどうやって遊ぶの?」 「見た感じはドラゴンによく似た箱型だから、まずフタを開けて、中にある導火線に火を点けて遊ぶんだと思うよ」 「導火線があるんだ。何だかダイナマイトみたいだねー」  その言葉を聞いて、俺だけでなく、親父やお袋までもがギョッとして耳を疑ったが、ミオが毎週見ているアニメの『海賊三国志』にダイナマイトが出てくるので、この子はきっと、そこから知識を仕入れたのだろう。  俺が子供の頃に再放送で見た、昔の某キョンシー映画のように、子供が腹にダイナマイトを巻き付けて突撃し、かつての親方だったキョンシーもろとも自爆した時の衝撃に比べたら、海賊三国志の表現なんて優しいもんだ。  そもそも、あのアニメでは発破にしか使ってないし。  なので俺は、心配になって何か言おうとしていた親父とお袋を手で制し、グッドサインを出すことで「ミオは大丈夫だから」と伝えておいた。 「導火線は確かにどっちにもあるけど、使う火薬の質と量が違うかな。ほら、おもちゃ花火がダイナマイトみたいに爆発したら、遊ぶどころじゃないだろ?」 「うん。ボク、変なこと言っちゃった?」  噴き出し花火を両手で包み込むように持つミオは、俺がたしなめていると受け取ったのか、申し訳無さそうに顔色をうかがってきた。 「いや、そんな事ないよ。とある物から他の物を連想できるのは、ミオの頭の回転が速いという証拠だからね。でも今日はダイナマイトの事は忘れて、夜の黄昏で花火を楽しもう。な?」 「分かったよー。ごめんねお兄ちゃん」 「いいんだよ、謝らなくて。よしよし」  ミオが突拍子もない連想で、場の空気を悪くしてしまったと思い込み、罪悪感で気を落とす前に、そっとミオを抱き寄せ、シャンプーの芳香が漂う、ふんわりヘアーを優しく撫でた。 「ね、お父さん。義弘はあんなに優しい子に育ったのよ。ああやって細かい気遣いをしてあげられる子だからこそ、ミオちゃんは、お嫁さんになりたい思うほど義弘のことを好きになったんでしょうね」 「……そうだな。しかし、どうして義弘までが、男の子のミオくんに恋するようになったんだ? お相手は、まだ十歳の子供なんだぞ」

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