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46.花火で遊ぼう!(28)
「あら。そうは言うけど、愛に年齢は関係ないでしょ? 男の子同士の恋愛だって、今に始まった話じゃないのは、お父さんもよく知っているでしょうに」
「そりゃあ、確かに知ってるし、愛し合っている義弘たちの仲を引き裂くつもりもサラサラないさ。おれが知りたいのは、義弘がミオくんに惹かれた理由だよ」
「お父さん、ほんとに気が付かないの?」
「さっきの繰り返しになるが、ミオくんはまだ子供だろう。俺は母ちゃん一筋だから、尚更、義弘が男の子に恋した理由が分からねぇんだ」
「ミオちゃんを見ていれば、義弘が心を惹かれた理由も分かると思うけど。お人形さんみたいに可愛らしくて、とっても素直で甘えんぼうさんじゃない? あの子の守ってあげたくなる、お姫様のような魅力は、もう男か女かという次元では語り切れないのよ」
「うーん。そう言われると、母ちゃんの分析通りかも知れんなぁ。ただ世間の目は、おれたちほど優しくはないだろうな。同性愛はともかく、少年愛がどれだけ受け入れられるのか……」
「その少年愛に偏見や嫌悪感を抱く人の数によっては、あの子たちは、茨の道を歩む事になるかも知れないのね」
「十中八九そうなるさ。頭が固いと決めつけてしまえばそれまでだが、その人らにも、自分なりの道徳観があるんだ。だから、お互いが相容れる事は、まず不可能だろうよ」
「じゃあ、ただひとつ、あの子たちが生き延びるための術 を挙げるとするなら、それは、二人の関係をひたすらに隠し通すこと――」
「それしか方法はあるまいよ。ただ、たとえ世論を盾にして罵倒してきたり、後ろ指をさされるような事があったとしても、おれたちだけは、義弘とミオくんの味方であり続けてやらねぇとな」
「ええ、そうね……」
という内容の会話を聞かれないよう、親父たちは声を潜めて話していたようだが、さすがに息子の俺は、両親が何を喋っているのかは、ぼんやりと聞き取れちゃうんだよなぁ。
何しろ俺は、産声をあげ、この世に生を受けた時からずっと、親父たちの話し声を、ありとあらゆる距離で聞いて育ってきたからね。
そんな話を続けるさなか、お袋は途中で言葉を詰まらせ、涙のにじんだ顔を俺たちに見られないよう、しばらくうつむいていた。
おそらく俺とミオが、これからも愛し合って生きていく上で直面する、様々な問題に立ち向かわなければならない事を憂い、その不憫さに涙したのだろう。
お互いの魅力に惹かれ、恋に落ちた二人の性別が、たまたま同じ男だったというだけなのに――。
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