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46.花火で遊ぼう!(31)
「噴き出し花火って綺麗だねー、お兄ちゃん」
「そうだな。花火がなぜ花火と名付けられたのか、この彩りを見ていると分かるような気がするよ」
「うんうん。小さな箱からひろーく噴き出す火花が、花瓶に挿したお花みたいに見えるもんね」
「さっき話してたドラゴンはもっとシンプルだったけど、そういう先人の知恵を見習って、色鮮やかで、かつ、華やかに改良していったんだろうなぁ」
「んー? お兄ちゃん、またドラゴンの話してる。ほんとに子供の頃しか花火を遊ばなかったの?」
カラフルな『真夏の黄昏』を眺めつつ、昔の噴き出し花火に思いを馳せていると、ミオが突然、訝 しげに尋ねてきた。
俺が何度も、ミオと同じ年頃に遊んだドラゴンの話を持ち出すもんだから、それより後の思い出話がない事に異様さを覚え、とある疑惑を抱いたのかも知れない。
「え? ほんとだよ。ミオが聞きたいのって、大人になってから花火遊びをしたかどうかだろ?」
「うん」
「ついでに言うと、『女の子と一緒に花火で遊ばなかったの?』ってところかな?」
「そうだよー。そっちの方が一番聞きたいの」
「未遂ならあるよ。それでもよければ話すけど」
「ミスイ? ミスイってなぁに?」
ミオがちょっと戸惑ったような様子で言葉の意味を尋ねてくる時は、たいてい、その言葉自体を知らないのか、あるいは聞き間違いをした時である。
で、今回はちゃんと「ミスイ」と発音しているから、まだその意味を知らないのだろう。
まぁ、未遂なんて言葉は、もっぱら自分や他人をあやめようとしたり、何らかの犯罪に手を染めようとしたものの、遂行できなかった場合によく用いられるので、とてもじゃないが、縁起が良い言葉だとは説明できない。
俺が使った未遂も、ろくな思い出じゃないという意味では、やはり縁起は悪いのだから、こういう言葉をみだりに使うのは、ミオの教育上相応しくないかも知れない。よって、俺は表現を変え、他の言葉で当時のエピソードを語ることにした。
「ごめん、未遂の使い方は俺の間違いだから無しで。簡単に話すと、花火遊びをする事は決まったんだけど、寸前でドタキャンされちゃったんだよ」
「あ。ドタキャンなら分かるよ! 直前で止 めになっちゃうことだよね?」
「そう。で、ドタキャンした相手が元カノだったんだけどさ」
「え! また元カノさんなの!?」
大きく目を見開いて聞き返すミオの反応から推察するに、どうやらこの子は、ドタキャンした相手が他の女性だと予想していたようだ。
「また、あの口の悪い元カノさんなんだよ。ちなみにキャンセルの理由は『男友達に映画に誘われたから、花火は、義弘一人でやっといて』だってさ」
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