518 / 831

46.花火で遊ぼう!(32)

「えぇ……」  キャンセルの理由がよほど理不尽に聞こえたからか、俺が不甲斐ないからか、話を聞いたミオは、困ったような、あるいは呆れるような顔で閉口してしまった。 「で、俺一人で花火セットを遊んでてもむなしいじゃん? だから、俺たちが住んでるマンションの、子供がいる家族にあげちゃったんだ」 「ちょ、ちょっと待ってよぉ、お兄ちゃん。元カノさんと花火で遊ぶのは、映画を見るより先に決まってたんでしょ?」 「うん。一週間前から決まってたね」 「そんなに早くから決めてたのに、どうしてその日に、彼氏以外の人と映画見に行っちゃったの?」 「何でだろうな。俺も厳しく問い詰めなかったから分からないけど、大方『気が変わった』とか、そういう単純な理由じゃないかな」  俺が、何となく元カノの心理を推し量ったところ、ミオは首を傾げて一言、「うーん」と(うな)り、それ以上は何も言わなくなってしまった。  現・彼女であるショタっ娘ちゃんのミオも、彼氏の情けないエピソードを聞かされて、たぶん幻滅しちゃったんだろうな。  これ以上恥をさらしても仕方ないので、俺も、徐々に勢いが弱くなりつつある噴き出し花火を見つめながら、ああ、この終わりかけの辺りから黄昏と名付けたのかなぁと、頭の中で適当な推測を始めた。 「ねぇ。お兄ちゃん」 「ん? 何だ――」  月の明かりがおぼろげで、噴き出し花火の火薬も尽きて完全に沈黙し、真っ暗な庭へと戻ったそのタイミングを見計らったのか、ミオが俺に声をかける。  次は何の花火で遊ぶのか、その相談でもするのかなぁと思い、いつもと変わらぬ返事をしようとした、その瞬間。  突如、俺の左頬に柔らかいものが触れ、数秒ほど経った後に、そっと離れていった。 「ミ……ミオ?」 「えへへ、ビックリしちゃった? 今のはね、大好きなお兄ちゃんに、一緒に花火で遊んでくれてありがとうのキスだよ!」  そう耳打ちしたミオは、今のような暗がりの中なら、親父たちの目に付かないだろうと思って、俺に口づけする機会を(うかが)っていたらしい。  ちくしょう、俺は何て幸せ者なんだ!  こんなにかわいいショタっ娘ちゃんを彼女に持ったばかりか、花火を一緒に遊んだお礼として、ほっぺにキスまでしてくれるなんて。  あの元カノとは正反対で、事あるごとに俺への感謝の言葉を述べ、お礼までしてくれるんだから、そりゃあ惚れもするよな。  この想いをうまく説明するのは難しいけれど、たぶん俺は、ミオが男の子だとか、美少年だからだとかじゃなく、ミオがミオだから恋に落ちたんだと思う。

ともだちにシェアしよう!