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46.花火で遊ぼう!(32)
「えぇ……」
キャンセルの理由がよほど理不尽に聞こえたからか、俺が不甲斐ないからか、話を聞いたミオは、困ったような、あるいは呆れるような顔で閉口してしまった。
「で、俺一人で花火セットを遊んでてもむなしいじゃん? だから、俺たちが住んでるマンションの、子供がいる家族にあげちゃったんだ」
「ちょ、ちょっと待ってよぉ、お兄ちゃん。元カノさんと花火で遊ぶのは、映画を見るより先に決まってたんでしょ?」
「うん。一週間前から決まってたね」
「そんなに早くから決めてたのに、どうしてその日に、彼氏以外の人と映画見に行っちゃったの?」
「何でだろうな。俺も厳しく問い詰めなかったから分からないけど、大方『気が変わった』とか、そういう単純な理由じゃないかな」
俺が、何となく元カノの心理を推し量ったところ、ミオは首を傾げて一言、「うーん」と唸 り、それ以上は何も言わなくなってしまった。
現・彼女であるショタっ娘ちゃんのミオも、彼氏の情けないエピソードを聞かされて、たぶん幻滅しちゃったんだろうな。
これ以上恥をさらしても仕方ないので、俺も、徐々に勢いが弱くなりつつある噴き出し花火を見つめながら、ああ、この終わりかけの辺りから黄昏と名付けたのかなぁと、頭の中で適当な推測を始めた。
「ねぇ。お兄ちゃん」
「ん? 何だ――」
月の明かりがおぼろげで、噴き出し花火の火薬も尽きて完全に沈黙し、真っ暗な庭へと戻ったそのタイミングを見計らったのか、ミオが俺に声をかける。
次は何の花火で遊ぶのか、その相談でもするのかなぁと思い、いつもと変わらぬ返事をしようとした、その瞬間。
突如、俺の左頬に柔らかいものが触れ、数秒ほど経った後に、そっと離れていった。
「ミ……ミオ?」
「えへへ、ビックリしちゃった? 今のはね、大好きなお兄ちゃんに、一緒に花火で遊んでくれてありがとうのキスだよ!」
そう耳打ちしたミオは、今のような暗がりの中なら、親父たちの目に付かないだろうと思って、俺に口づけする機会を窺 っていたらしい。
ちくしょう、俺は何て幸せ者なんだ!
こんなにかわいいショタっ娘ちゃんを彼女に持ったばかりか、花火を一緒に遊んだお礼として、ほっぺにキスまでしてくれるなんて。
あの元カノとは正反対で、事あるごとに俺への感謝の言葉を述べ、お礼までしてくれるんだから、そりゃあ惚れもするよな。
この想いをうまく説明するのは難しいけれど、たぶん俺は、ミオが男の子だとか、美少年だからだとかじゃなく、ミオがミオだから恋に落ちたんだと思う。
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