531 / 832

46.花火で遊ぼう!(45)

「ねぇ、お兄ちゃん」  縁側に上がり、お袋が用意してくれておいた庭用のサンダルを並べ終えると、何か聞きたそうにしていたミオが、俺の顔色を伺いながら口を開いた。 「ん? 何だい?」 「えっと……バケツのお水に漬けた花火って、ゴミとして捨てるんだよね?」 「うん。そうだけど、何か気になるとこがあった?」 「あのね。ボクたち、明日も花火で遊ぶでしょ? だから今度は遊ぶだけじゃなくて、後始末もボクがやらなきゃって思ったの」 「ああ、そのことを考えてたのか。ミオは律儀だね」 「そんなことないよー」  そう言って、申し訳なさそうな顔で謙遜するところがまた、慎み深いんだよなぁ、この子は。  ミオを実家に連れてきたのは、顔合わせと同時に、目一杯もてなして、のどかな田舎で、スローライフを満喫してもらうのが目的だったのに、花火の後始末まで申し出てくるとは。  もっとも、過保護のあまり、ものを知らない子供に育ててしまうのは本人のタメにならないし、それを理由に俺が里親として失格の烙印を押された場合、二人が離れ離れになってしまうおそれがある。  そういう背景を知っているのかどうかは分からないが、とにかくミオが、自主的に花火の後始末をしたいと申し出たのは、自分が育てられてきた施設による教育の賜物なのだろう。  これは花火に限った話ではない。そのおもちゃが何であろうと、遊び終わった後は、キチンと片付ける。  その片付けの知識やノウハウを身に付けさせるという意味でも、明日の花火では、自ら手を挙げたミオに、後始末の経験を積ませた方がいいだろう。  片付けをする事は、すなわち次に遊ぶための準備をする事でもあるわけだからね。 「じゃあ、花火とか、着火する道具なんかの後片付けの方法は、あとで教えてあげるとして。まずは洗面所で、火薬の臭いが落ちるまで、綺麗に手を洗おうね」 「はーい!」  ミオは、いつも通りの明るい笑顔で答え、元気いっぱいに右手を上げた。  初めて俺の実家を訪れるに当たり、思わぬロングドライブになって疲れただろうと気遣ったのだが、昼寝をして、うまい飯を食べた事で、それもすっかり癒えたらしい。  まだ二十七歳の俺が言うのも何だが、若いって良いことだなぁ。  俺も子供の頃は、夏休みはほぼ毎日、夕方の町内放送が鳴り響くまで遊び倒していたし、きっとバイタリティが無尽蔵だったんだろうな。  せっかくミオを田舎まで連れて来たんだし、明日は昼飯を食ったら、ちょっと足を伸ばして、二人っきりで街にでも繰り出してみようかね。  たまには、自由きままな街ぶらデートもいいもんだろ。

ともだちにシェアしよう!