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47.ひと騒動(1)
花火遊びを終えた俺たちは、直行した洗面所にあるハンドソープを使い、手のひらや指の股、さらに手首も入念に洗い、火薬の臭いを落とした。
「二人とも、キチンと手を洗って来たみたいね。虫刺されはなかった?」
久々にフル回転させた脳みそを休ませようと思い、リビングのソファーへ腰掛けようとした俺に、お袋が、蚊に噛まれた場所がないかを尋ねてくる。
「俺は大丈夫っぽいな。虫除けスプレーと、蚊取り線香の煙が程よく効いたらしいよ」
「そう。ミオちゃんは大丈夫? 可愛らしいお顔に、虫刺されの痕なんて残ってないでしょうね」
お袋が、疑り深い顔でそう聞いてくる理由 は、保護者である俺の、ミオに対する虫刺されの予防として、しっかりとケアを施したのかの確認が取りたいのだろう。
「たぶん大丈夫だと思うよ。ミオはちょっと肌の露出が多いけど、その分スプレーは満遍なく振りかけたし、蚊取り線香も炊いてたからね」
「なら良いけど。かわいいミオちゃんのお顔にだけは、傷を付けちゃダメなんだからね」
「へいへい。わーってますよ」
いつもとは違う、俺の返事を隣で聞いていたミオは、その砕けっぷりがよほど面白かったのか、鼻と口を両手で覆い隠し、小声でクスクスと笑った。
ミオの美しい顔に、後に残るような傷を付けてはいかん……というのは同意見なのだが、さすがに当の本人がいる前で、わざわざ念を押すことでもないでしょうよ。
お袋はお袋なりに、ミオのことを案じているからこその念押しなのだろうが、受け取り方によっては、ミオ本人へ、遠回しに注意しているようにも聞こえてしまうんだし。
幸い、ミオ本人はそこまで気が回らなかったというか、単なる俺とお袋だけの珍妙なやり取りだと思って、笑って見ていてくれたからいいものの、あまりプレッシャーをかけるのはご勘弁願いたいもんだ。
「どうだい? ミオ。俺から見た感じだと、顔の虫刺されは大丈夫みたいだけど、どこか気になるところはある?」
「んー? どうかなぁ。ちょっとだけ、太ももの後ろ側がモヤモヤするけど……」
「モヤモヤ?」
俺と、眉をしかめたお袋が同時に聞き返す。
チクチクするとか、ヒリヒリするとかなら分かるんだけど、モヤモヤは聞いたことがない表現だな。果たしてそれは、虫刺されなのか?
「どっち? ちょっと見せてごらん」
俺がそう言ってミオに後ろを向かせ、どちらの太ももがモヤモヤするのか目視で調べてみると、左脚の内側で、ショートパンツの裾に近い部分が、ほんのちょっとだけ赤みを帯びていた。
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