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47.ひと騒動(6)

「ほら、手を出しなさい。お母さんが塗ってあげるから」 「はい。何だか申し訳ないね、面倒かけちゃって」 「何言ってんのよ。ここにいる皆は家族なんだから、これしきの事で気兼ねしたりしないの」  お袋は諭すようにそう言うと、虫に刺された左手の甲に、すり込むように薬を塗ってくれた。 「しばらくは痒いだろうけど、絶対掻かないのよ」 「うん、ありがとう。ところでだけど、ミオの太ももにある赤みは、結局何だったんだろ?」 「うーむ。小さな赤みだけで腫れも痒みも無いなら、虫の仕業じゃないような気もするな。もっと間近で、ルーペを使って見てみるか?」 「それはわたしがやるわ。お父さんたちには、ちょっと任せられないから」  一体、どういう意味で任せられないのか考えてみたが、たぶんお袋は、俺と親父がミオの麗しい太ももを見続ける行為の理由を、下心を抱いているからだと思ったのだろう。  だとしたら全くの心外なのだが、ただ、見れば見るほど、魅了されていくという点において、赤みを調べるついでに、単純に太ももを眺めてやしないかと問われて、いいえと答えたら嘘になる。  でも、親父は論外だとして、俺はミオの彼氏なんだから、彼女であるショタっ娘ちゃんの体を見る権利くらいはあるでしょうよ。  つまり、俺がミオの太ももを眺める行為は、言わば彼氏の特権なんだよ……という主張をこの場で口にしたら、たぶん二人から、尋常じゃないほどの大目玉を食らいそうな気がする。状況が状況なだけに。  だから余計な事は一切言わないようにしているのだが、ミオの内ももにある赤みは、一体何だろう?  さすがの俺も、毎日ミオの体を隅々まで見ているわけではないから、いつ何時、かような赤みを帯びたかが分からない。  悪い症状じゃなきゃいいけど。 「ああ。この赤いのは、虫刺されじゃないわね」 「何だって? でも、さっき親父が叩き潰したヤブ蚊の死骸は、現に――」 「あれは、お前の左手の甲に噛みついた奴だろ。酒飲みじゃああるまいし、ヤブ蚊だって、そうそう血液のはできないんだよ」  親父はヤブ蚊の習性を、自分のたしなみであるお酒に例え、俺の反論を一蹴した。  俺の隣に位置取り、ミオの美麗な太ももをじっくり観察しておきながら、自らの見解をあっさり撤回するんだから、調子がいいにも程があるよな。 「こうしてルーペで赤みを拡大して、初めて分かったのよ。ミオちゃんの太ももにあるのは、小さなニキビのなりかけだって事にね」 「へ? ニキビ?」  気の抜けた俺の返事とは対極的に、いたって真面目な表情で頷くお袋には、自分の見立てに相当な自信があるようだ。

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