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47.ひと騒動(11)

 しかし、そんな淡い期待感も、当事者であるミオの一言で、あっさり水泡に帰してしまうのであった。 「ボク、お兄ちゃんと一緒がいい……」  申し訳なさそうな顔で答える、ミオの気遣いを目の当たりにした親父とお袋の表情を見るに、その心優しさで、各々の抱いた野望がすっかり浄化されてしまったようだ。  とは言え、だ。自分たちにとって待望だった初孫のミオと一緒の床につき、たくさん甘えさせて可愛がってあげたいという気持ちに、嘘や偽り、二心がないのは、親父たちの一人息子である俺が、最もよく理解している。  ただ、当のミオは、寝床に俺がいないと不安になって、まともに眠れなくなるかも知れないしなぁ。  どっちの願望も平等に叶えてあげるためには、ミオが同意してくれそうな折衷案(せっちゅうあん)を提示するしかないだろう。 「なぁミオ。同じ部屋で、皆一緒に寝るってのはどうだい?」 「え? 皆で?」 「そう。布団をいっぱい並べて、親父とお袋、そして俺とミオが一緒に寝るんだ。それならさみしくないだろ?」 「うん。お兄ちゃんがいてくれるなら、ボク、それでもいいよー」  さっきとは一転して、明るい表情で答えるミオを見て、自分たちが無茶な提案をしたのでは? という罪悪感に苛まれかけていた親父とお袋も、今では救われたような、晴れやかな笑顔になっている。  一緒に暮らし続けてきて今更こう思うのも何だが、うちのショタっ娘ちゃんは、やっぱり〝愛され属性〟なんだろうなぁ。  小学校の体育で遊んだドッジボールでも、味方の男の子だけでなく、女の子たちにまで、身を挺して(かば)われたらしいし。  その女の子たちの中で、ミオと特に仲が良いクラスメートたちからは、たびたびガールズトークに誘われては、その美形をもて(はや)されているとも聞いた。  もっとも、そんなショタっ娘ちゃんに惚れられて相思相愛になって、婚約まで果たしたラッキーボーイは、誰あろう俺なんだけどね。 「ねぇお兄ちゃん。ウサちゃんも一緒に寝ていい?」 「もちろん構わないよ。ウサちゃんも俺たちの家族だからね」 「やったー! ありがとう、お兄ちゃん!」  ウサちゃんのぬいぐるみを抱っこして寝るお許しをもらい、頭も撫でられたミオの嬉しそうな顔は、とても眩しかった。  今日はミオを連れて実家に帰り、今に至るまで色々あった一日だけど、いずれも大きな騒動にならなくて、ほんとに良かったよ。  さすがに今日は俺も疲れたから、久方ぶりとなる実家の布団でゆっくり休んで、明日の朝食後にでも、一日の予定を考えるとしますか。

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