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48.ショタっ娘とスローライフ(3)
「そうかそうか。とても大切なウサ……ちゃんなんだね」
ミオの話を受けて、優しく落ち着いた声色で返す親父の言葉が、途中でつっかえたのには、れっきとした理由がある。
まぁ単純に、五十路を五年も超え、還暦も近づいてきた男が、「ウサちゃん」と呼ぶ事に若干のためらいが生じた結果、あえて呼び名を途切れさせたのだろうが、親父も大概シャイだねぇ。
俺たちの帰省中、ショタっ娘のミオと一緒に遊ぶなら、たくさんのかわいいモノと触れ合う事になるんだけど、親父はこんな調子でついて来れるんだろうか。
「義弘。牛乳もあるから、ミオちゃんと二人で飲んでいいからね」
お袋はそう言いながら、各々のモーニングプレートに料理を盛り付けた後、その傍らに、新鮮な牛乳で満たされ、ロゴマーク以外の見た目が真っ白になった、ガラス瓶を並べ置く。
「牛乳いいの? これ、いつも親父たちが頼んで飲んでるやつだろ?」
「わたしたちは、パックで買ってきたのがあるから。あなたたちが家にいる間くらいは、いいものを飲ませてあげたいのよ」
「そうそう。特にミオくんは育ち盛りだからな」
決して、スーパーやコンビニなどで売られている紙パックの牛乳が、味や品質で劣ると言うつもりはない。そこは、瓶詰めの牛乳を譲ってくれたお袋たちも同じことだろう。
ただ、親父たちが契約している宅配牛乳は、市販されているものとは〝売り〟が違う。極力生乳に近いのはもちろんとして、栄養分も豊富な製品を毎日、自宅まで届けてくれるサービスの契約であるため、決して安くはないのである。
そんな宅配牛乳を、小さな頃から毎日飲んで育ってきた俺の身長は、およそ百七十四センチ。全てが牛乳のおかげとは言わないが、成長の一助となったのは疑う余地がない。
俺が大学進学のために実家を離れても、親父たちは、ずっと牛乳を頼み続けていたんだなぁ。
「ありがとう。じゃあミオ、遠慮なく牛乳をもらっちゃおうか」
「うん。お祖父ちゃんお祖母ちゃん、ありがとね」
「いいのよ、お礼なんて」
お袋は水臭いと言わんばかりに、目尻 を下げて笑みを作り、右手の甲を上下にパタパタさせて、まだ少し遠慮がちなミオを気遣ってくれた。
「念のために聞くけど、ミオくん。給食で出される牛乳を飲んで、お腹が痛くなったりはしなかったかい?」
おそらく初めて見るのであろう、ポリエチレン製のキャップが取り付けられた牛乳瓶を、いろんな角度から物珍しそうに眺めていたミオは、親父からの質問を聞き終えるや、ピタリと動きを止めた。
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