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48.ショタっ娘とスローライフ(5)
「そのジャムはね、義弘が子供の頃、よく好んで食べてたものなのよ。元々はお父さんの好物だったから、息の長いジャムよね」
というお袋の話を聞かされたミオは、パンを頬張ったまま、声を上げずに、コクコクと頷いた。
よそがどうだか知らないが、少なくとも柚月 家においては、口に物を入れたまま、食べながら喋るのはマナーに反する。
かようなマナーを、ミオは我が家に迎える前から躾 けられていたので、パンを咀嚼 している現在は、たとえ簡単な相槌であろうとも一切声を漏らさず、黙したまま頷くことに徹するのであった。
「スープはさすがに別だとして、ワンプレートで朝食をまとめるのはいいアイデアだね。洗い物も少なくて済むし、おしゃれな感じがする」
「見た目と、洗い物が少なくて済むお手軽さに関してはその通りだけどよ。おれと母ちゃんだけなら、朝飯はこの一皿で足りちまうんだよ。年を取ったせいで、昔ほど食えなくなってきたからな」
そう答える、親父とお袋のプレートに盛り付けられた料理の分量は、俺とミオの分よりも、目に見えて少ないのが分かる。
まぁ歳を重ねるってのはそういう事だよな。会社の上司も似たような事を言ってたけど、四十代を超えると、量はもちろんだが、露骨に脂分が多いものも食えなくなってくるらしいし。
ただ、である。
俺はともかく、ミオはもともと少食だから、同じボリュームの飯を全部食べ切るには、割と時間を使いそうな気がするんだよな。
もっとも、今は盆休み期間で完全なオフだから、時間なんて気にしなくてもいいんだけど。
「ミオちゃんは、毎朝どんなご飯を食べてるの?」
「えっと、いつもはパンだよ。おかず? でいいのかな? パンの他には、お兄ちゃんがスクランブルエッグとか、目玉焼きを作ってくれるの」
「あら、目玉焼きも食べてるの。義弘、いつの間にか、焼き方を覚えたのね」
「まあね。毎日スクランブルエッグじゃ味気ないから、ネットで調べて身に付けたんだよ。最初は、水を入れるって工程が信じられなかったけどさ」
ミオはトーストをもぐもぐしながら、俺の話に耳を傾け、そのつど頷いている。
「水は入れても入れなくてもいいけど、卵一個に対して、多くても大さじ三杯くらいで大丈夫よ。あんまり多いと、白身の部分が水っぽくなっちゃうからね」
「うん。よく覚えておくよ」
やっぱり、柚月家の胃袋を支えてきたお袋だなぁ。料理をおいしく作るコツや、失敗しない技術などの、家事をこなす主婦のために必要なものとして蓄えてきた、豊富な知識の数々で分かりやすくアドバイスしてくれるから、実にありがたい。
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