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48.ショタっ娘とスローライフ(8)

「――て事で、川遊びは止めて、もっと安全などこかへ遊びに行こう。ミオに『どこそこへ行きたい』って要望があったら聞くよ」 「んー? でもボク、お兄ちゃんの実家に来たのは初めてだから、どこに何があるのかは分かんないよー」 「あ。確かにそりゃそうだな。どこか、じっくりと腰を据えて楽しめるような場所があればいいんだけど……」  一般的な旅行では、行く先々にある観光スポットへと足を運び、思い出を残すために記念写真を撮ったり、ご当地のうまい飯を食ったりする。  だが、ここ咲真(さくま)市の北部は、山を切り崩して整地したものの、目的だったベッドタウン化に失敗してしまっているので、観光名所はもちろんのこと、娯楽らしい娯楽も、駄菓子屋さんや、さびれたスナックを除いてほとんど存在しない。  一応、バスや車で市の中心部である駅前に行きさえすれば、パチンコ屋やゲームセンター、カラオケボックスなどの娯楽施設がいくつか立ち並んでいるから、少なくとも、今いる実家の周辺よりは、賑やかな事には違いないだろう。  パチンコ屋は、まだ十歳というミオの年齢で引っかかるから、問題外……としてもだ。  ゲームセンターはパチンコ屋に負けないくらいの爆音を鳴らす筐体が多いし、何なら、古いパチンコやパチスロを置いている店もあるため、仮にミオが興味を示さなくても、教育上の観点でものを考えるなら、やはり不向きだとは思う。  もしも、大好きな魚釣りで天性の才能を発揮したミオが、プロの釣り人として生計を立てたいと言うなら、俺はきっと、喜んで背中を押すだろう。けれど、こんなご時世で博徒にするつもりは毛頭ない。  パチンコやパチスロの筐体が無いという前提で再検討してみても、やはりゲームセンターは、あまり居心地がいい場所だとは言えない。なぜならば、大規模な店になるほど、あらゆるゲームの音が混じり合って大音響を奏でるため、そういう喧騒を避けてきた俺とミオにとっては苦痛になるのである。  俺が生まれる前によく起きていたらしい、不良少年によるケンカやカツアゲみたいな物騒な目に遭う事はさすがにないだろうが、都会にだってゲーセンはある。だから、田舎に帰ってきてまで通うほどのお店にはなり得ないのだ。 「ダメだ。駅前でも良さげなところが何にも浮かばないや」 「義弘。あんたが高校生だった時には、割と遅くまで駅前をぶらついてたみたいだけど、何して遊んでたのよ」 「そりゃまぁゲーセン通いやカラオケとか、飯食いに行ったりとかだよ。ピザが食い放題の店にも何度か通ったけど、ドリンクが別料金なのは、さすがに厳しかったな」 「へ? お兄ちゃんって学校が終わった後、お家じゃなくて、お外でご飯食べてたの?」  俺の、学生当時の食生活がよほど奇異なものに聞こえたのか、ミオが目を丸くして、詳細を問い確かめてきた。

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