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48.ショタっ娘とスローライフ(10)
「まぁまぁ二人とも。今はその話はいいじゃないか」
付き合い、という言葉が招いた誤解に対する弁明で四苦八苦していると、親父が割り込むように口を挟み、助け舟を出してくれた。
「それよりも、この時期の駅前周辺は、方々からのお客さんでごった返してるんじゃないか? 繁華街はただでさえ、咲真で最も人が集まる場所なんだから、盆休み中は尚更だろ」
ここ、咲真市におよそ半世紀住んでいる親父が、自らの経験に基 づいて混雑予想を立てると、折り畳んだ新聞をひっくり返し、別の記事に目をやり始めた。
「確かにそれはあるね。他に行くところがないなら、皆とりあえず、一番賑やかな場所を目指すだろうし」
「最も大切なのは、ミオちゃんに楽しんでもらえる事よね。義弘は、かわいいものが大好きな恋人を、うまくエスコートできるのかしら」
「うーん……つまりは、咲真市でかわいいものに触れられそうで、ほのぼのと過ごせるデートコースを決めればいいわけだな」
もはや恋愛遍歴の話はどこかへ飛んで行ってしまったようで、ミオは目玉焼きをはむはむしながら、腕を組んで考え込む俺の横顔を、心配そうに見上げている。
きっとこの子は、頭をフル回転させ、自分をもてなそうとしている彼氏の様子を目にして、余計な気疲れをさせちゃっているのでは? と案じているのだろう。
あまり長考しすぎると、ミオにますます心配をかけてしまいかねないから、とりあえず、昼に食べる飯から先に決めてしまうとするか。
「ミオ。お子様ランチは好きかい?」
「んん? お子様ランチ? なぁにそれ?」
「え?」
ミオの口から飛び出た、ある意味で衝撃的な発言に、思わず耳を疑ったらしい親父とお袋は、お子様ランチが何なのかを尋ねるミオに、夫婦揃って驚きの視線を向けた。
ミオの浴衣を買いにデパートまで行った際、昼ご飯を食べに寄ったレストランのディスプレイには、お子様ランチの食品サンプルが並んでいた。
が、魚介類が大好きなうちの子猫ちゃんは、お子様ランチよりも、真っ先に海鮮丼の方へと興味が移ったため、おそらくどんな料理なのかを覚えていないのだろう。
「そうだなぁ。お子様ランチってのはさ、今日の朝ご飯みたいに、ワンプレート……は横文字で難しくなるから撤回するとして。平たく言うと、区分けがされた大きなお皿に、ミオくらいの子供たちが喜ぶおかずをたくさん乗っけたご飯なんだよ」
「大好きなおかず?」
「うん。例えばハンバーグとか、タルタルソースがたっぷりかかったエビフライだろ。他にはスパゲッティや、フライドポテトなんかもある」
「え、お子様ランチってそんなにたくさんあるの? ボク、全部食べ切れるかなぁ」
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