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48.ショタっ娘とスローライフ(13)

 お袋としては、スーパーで買い物をする方が主目的なのだろうが、かわいい初孫の寝顔を収めた写真を現像するのが「ついで」だとは、口が裂けても言わないんだろうな。  もっとも、ミオの愛らしい寝顔をアルバムに挟んで、毎日眺められるようにするのが親父たちの悲願だったんだし、一日でも早く写真屋に行きたいという気持ちも、相当に強かったんだと思うけれど。 「わたしたちは車で行くけど、義弘とミオちゃんはどうするの? 車を出すなら、あの辺のコインパーキングも、いろいろチェックしておいた方がいいんじゃないかしら」 「こいんぱー、きんぐ……?」  ミオはコインパーキングという言葉に全く聞き覚えが無いのか、苦手な横文字なのかどうかも分からない様子で、首を傾げて考え込みだした。  この間、デパートまでミオの浴衣を買いに行った時、近くのコインパーキングに車を停めたのだが、あれは「駐車場」だよと説明したからなぁ。 「まぁ、車を動かさなきゃ馴染みがない言葉だよな。コイン、パーキングなんて。平たく言うと、お金を払って車を停めさせてもらう場所を和製英語にしたら、ああいう呼び方になるんだよ」 「んん? 和製英語?」 「そう。和製の『和』は日本の事でさ、日本人が英単語をくっつけて、それらしく作った英語が和製英語になるってわけ。だからこそ、外国の人には通じない場合も多いんだけどね」 「じゃあ、コインはお金を英語にしたって事なの?」 「まぁ……そうなんだろうな。お札よりも金額が少ない、貨幣をコインって言い換えるのは、よくある話だよ」  という話を聞いて、傾げていたミオの首が元に戻ったところを見るに、どうやら、自身の中では、ある程度の納得がいったらしい。  今度は貨幣に引っかかるかと思って、説明する準備はできていたのだが、さすがにミオくらいの歳の子になると、社会か何かの授業で学んでいるんだろうな。 「一番心配なのは、そのコインパーキングが、他府県ナンバーの車で満杯になってしまっている事だな」 「まだ午前九時ちょっとでしょ? 今から行けば空きは充分あるわよ」 「そうだね。万が一、駅前周辺で停められなきゃ、ちょっと離れたところに駐車場が無いか、探してみるよ」 「ええ、そうしなさい。ミオちゃん、目一杯デートを楽しんできてね」 「うん! ありがとう、お祖母ちゃん」  お袋はいかにも名残り惜しそうな様子で、俺の腰に手を回して抱きついている、ミオの頬を両手でそっと包み込み、優しく撫で回した。  ほんの半日ほど街ブラに行ってくるだけなのに、こんな風に、お別れの時が訪れたみたいな見送り方をするんだから、ミオが愛しくて仕方ないんだろうな。

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