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48.ショタっ娘とスローライフ(14)
「よし、行こう。とりあえずは、駅前周辺までドライブだ」
「はーい。お祖母ちゃん、行ってきまーす」
「行ってらっしゃい。義弘、他府県ナンバーの車には気をつけるのよ」
「りょーかいっ」
他府県ナンバーの車には気をつけろ!
この言葉は、俺がマイカーで帰省するたび、お袋だけでなく、親父にも口酸っぱく注意される時に用いられたので、一言一句覚えてしまった。
で、あるがゆえに、そのつど両親に向けて、安全運転の誓いと決意表明をしていたら、かえってわざとらしくなる。
言葉遣いこそフランクだけど、結果は行動で示す。それが、両親を安心させる俺なりの返事だと思うようになってきて、今に至るわけだ。
――という他府県ナンバーの車にまつわる話を、車中の助手席で座っているミオに聞かせると、ミオはどことなく、釈然としない表情を浮かべた。
「お盆とお正月に、他府県ナンバーの車がいっぱい走るのは分かったけど、どうして気をつけなきゃダメなの?」
「ん? んー、そうだな。話せば長くなるんだけど、一言で説明すると、他府県から来た人は、慣れない道路を走るから……かな」
「慣れない道路?」
まだ十歳という幼さであるがゆえに、車の運転とは無縁なミオに、「慣れない道路」と言ってもピンと来ないのかも知れない。
というか、確実にピンと来てないな、これは。じゃなきゃ、そんな風に困ったような顔は見せないもんね。
「そうだなぁ。もうちょっと、込み入った話をしようか。例えば、今走っている道路は〝県道〟と言って、国道の次に大きい道路なんだけどさ」
「うん」
「今、俺たちは信号待ちで停車してるじゃん。そこで問題なんだけど、この信号の百メートル先には何があるか、ミオには分かるかい?」
「え! そんなの分かんないよー。だって、初めて来た所なんだもん」
「だよな。普通はそうなんだ。で、今しがたミオが言った事と、全く同じ事を思っているかも知れないのが、他府県から車でやって来た人ってわけ」
「ふむふむ?」
日本には「一を聞いて十を知る」という諺 がある。
俺のたとえ話を聞いたミオも何かを悟ったらしく、さっきまでの困り顔はどこへやらで、今は顎に人差し指を当て、視線を斜め上に向け、自分なりに答えを導き出そうとしているのだった。
ちなみに、なぜ北海道と東京都を含めて「他都道府県ナンバー」と呼ばれないのかというと、いろいろ理由はあるが、単純に語呂が悪いのもあるんだと思う。
話を戻すが、俺が、さっき「全く同じ事を思っているかも知れない」と言った理由 は、決して曖昧に、表現をぼかしたからではない。
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