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48.ショタっ娘とスローライフ(17)

「へぇー。それをあーけーどって言うの?」 「うん。つまりアーケードという単語の意味を一言で説明するなら、『アーチ状の屋根が付いている街の道路』、みたいな感じになるんだね」 「そうなんだ! あーけーどって短い言葉なのに、意味がいっぱい詰まってるんだねー」  ミオが頭の中でイメージしやすいよう、アーチ状、という言葉を付け足したので、若干意訳が強くなってしまったかも知れない。  ただ、先ほどよりは晴れやかになったミオの表情を横目で見るに、どうやらその意訳によって、まだ見ぬアーケードの形状と意味合いを、頭の中で思い描くことができたようだ。  の欲目かも知れないが、やはりこの子は、一を聞いて十を知るタイプの神童じゃないかと思う。  もっとも横文字には滅法弱く、生来の天然である事も相まって、思いがけないフレーズが飛び出して来る場合もある。  そんな時は俺も狼狽(うろた)えたり、時には笑わされたりするもんだが、ああいう絶妙な言い間違えも、ミオの中に潜在する才能のひとつなんだろうな。 「お、珍しいな。今日は駅近くのコインパーキングにも、割と空きがあるみたいだ」 「んん?」  俺の口から飛び出した情報と、眼前に広がる光景が全く一致しなかったせいか、ミオは不思議そうな顔で、助手席ドアのウインドウに張り付き、周囲を注意深く見回し始めた。 「ねぇねぇお兄ちゃん。今走ってるところの、どこにも駐車場はないよ。どうやって空きがあるって分かったの?」 「え? ああ、それはね、市が運営してる電光掲示板の情報を見たからだよ」 「うー。シガウンエーシテルデンコーケージバン……。最後の『情報』しか分かんなかったぁ」  ミオは自分が知らない単語や言い回しを耳にすると、こんな風に、棒読みで復唱してみる癖がある。  その棒読み作戦は、自分なりに、未知である言葉の意味を考えようとしているのか、あるいは過去に聞いた事がある言葉ではないか……と思い出しているのか、状況によって使い分けているようだ。  かような、ミオの癖を踏まえて推察するに、今回のケースで棒読みした意図は、おそらく前者の方であるからだと思われる。  日がな電車で通勤している俺は、電車の行き先と到着時刻が表示されるを日常的に目にしているが、徒歩で通学しているミオにとって、道すがらで電光掲示板を見かける機会は、全くと言っていいほど無い。  だからこそ、その名前をいざ耳にしても、さも外来語のように聞こえてしまうのだろう。

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