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49.初めてのお子様ランチ(1)
俺、こと柚月義弘 の実家は、咲真 市の、山と田畑に囲まれた地域にある。
のどかだと言えば聞こえはいいが、娯楽らしい娯楽がほとんど無いので、ぶっちゃけた話がヘンピな田舎だ。
その田舎とは対極的で賑やかなのが、咲真の駅前周辺にある繁華街とアーケード商店街で、いずれも実家から車を飛ばして、およそ十五分くらいのところにある。
学生時代の俺が、学校帰りに寄っていたのもここいら一帯なので、どこに何の店があるのか、だいたいは覚えているつもりだ。
繁華街に比べて、通行人やお客さんが少ないアーケード商店街をデートコースに決め、朝一番で遊びに来た俺とミオは、まだ開店したての本屋へと足を運び、二人で一緒に、人気アニメのコミカライズ版を探し始めたのだった。
「ミオが探しているのは、プリティクッキーの漫画だけでいいの?」
「うん。クラスメートの男の子たちは、『海賊三国志』のご本を集めてるみたいだけど、ボクはアニメを見るだけで充分だから……」
今しがた、ミオが名前を出したアニメ、『海賊三国志』は、世界の海を縄張りにした海賊たちが、領海を広げるために、ライバルたちとしのぎを削っていく、いわゆる男の子向けの作品だ。
ミオはもともと、先に放映される『魔法少女プリティクッキー』を見たくてチャンネルを合わせているだけなので、かわいいキャラや動物が出てこないアニメには、全くと言っていいほど興味を示さない。
ただドンパチするだけの海賊三国志は野蛮で暴力的という、いずれもミオが苦手としているものがテーマなので、描写がえぐい時は、視聴をそっちのけにして、俺に甘えてくる事もある。
何しろ海賊三国志は、プリティクッキーが終わって、二、三本のコマーシャルを挟んだ後にすぐ始まるもんだから、惰性で見ちゃうんだよな。
この時間帯にチャンネルを変えても、他局はアニメの放映をやっていないし、ミオが好きな魚釣りの番組も、およそ二時間前には全てが終わっている。
中立性が担保されていない報道番組を見せても悪影響だし、だったらチャンネルはそのままで、海賊三国志を流し見していた方が、アニメが好きなミオの為になると思うのだ。
何たって、クラスメートの男の子たちと教室で集まった時に、前日に見ていたアニメを題材にした、休み時間などで繰り広げられるお話にも、すんなり入っていけるからね。
「あっ! あったよお兄ちゃん。プリティクッキーの漫画だよー」
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