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49.初めてのお子様ランチ(3)
「何なんだコリャ? まるで重版出来 みたいな刷り方してるんだな」
「ね。こんなにたくさん一巻を置いてる本屋さん、初めて見たよー」
ミオはたぶん重版出来の意味を知らないで相槌を打っているのだと思うが、それでも、過剰なくらい印刷しているんだ、という事くらいは分かったらしい。
「えっと。次が二巻で、その次の三巻が売り切れちゃってるけど、四巻からは一冊ずつ置いてるみたいだよ。お兄ちゃん」
「ほー。で、ミオが欲しがってた七巻は?」
「ある!」
ずっと探していた、『魔法少女プリティクッキー』の最新刊である、第七巻が目の前に並んでいるのを見たミオは、瞳をキラキラと輝かせ、飛び上がりそうな勢いで喜んだ。
「やったー! えへへ、プリティクッキーの七巻だぁ」
「良かったな、ミオ。気まぐれだけど、立ち寄った甲斐があったってもんだ」
「うん。ずっと読みたかったから嬉しいなー」
ミオはニコニコしながら、本棚から取り出したプリティクッキーの最新刊を、まるで宝物か何かのように、大事そうに抱えている。
身も蓋もない事を言うと、本屋に無いなら通販、つまりネットショッピングで買えばいいじゃん? という話になるのだが、その手はすでに打った上での結果がこれなのだ。
大手の目ぼしい通販サイトでは、この七巻だけは軒並み品切れか、業者がぼったくりのような値段をつけていて、とても手を出せなかった。版元に発注をお願いしても、「増刷が追いついていないから」の一点張りで、まるで取り合ってもらえず……。
一縷 の望みにかけて、某オークションサイトやフリーマーケットのサイトを覗いてみたが、七巻だけが定価の五倍という、いわゆる〝転売価格〟での異様な相場だったため、俺もミオも、「定価じゃないなら絶対に買わない」という意思を確かめ合い、我慢の日々を送っていたのである。
不思議なのは、なぜ七巻だけがこうまで売り切れていたのか、だ。版元が出版する部数を間違えたのか、あるいは、七巻には本作を知らない大きなお友達が垂涎するようなカットを挟んでいて、それを目的にこぞって買い込んだのか……。
ほんとのところは俺も分からないが、あんまり穿 った推測をしても仕方ない。とにかく今は、悲願が達成した事で見せてくれた、ショタっ娘ちゃんの愛くるしい笑顔に癒やされつつ、喜びを分かち合う事にしようじゃないか。
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