572 / 834

49.初めてのお子様ランチ(7)

「うふふ。お兄ちゃんと一緒に漫画を読めるの、楽しみだなぁ」 「じゃ、その楽しみを無くさないように、漫画本は俺が預かっておくよ」 「うん、ありがと! お兄ちゃんが持っててくれたら安心だねっ」  そう言いながら、魔法少女の漫画本を大事そうに託したミオは今日、手ぶらでここへ遊びに来たので、本を収納する手段が無い。  そのまま本を手に持って街ブラさせるわけにはいかないので、この商店街で買ったものは、全て俺が持参した、大きめのショルダーバッグにしまい込む事にしたのである。  欲しい物が手に入り、満足げなミオと手を繋いで書店を出ると、アーケード幕に掲示された結婚式場の広告が目に入り、俺は再度、ブライダルチャーチの事を思い出した。 「ブライダル」が結婚でないという根拠は、結婚を英訳すると明らかだ。  結婚、あるいは結婚式、夫婦生活を表す英語は「Marriage」であり、我が国日本では「マリッジ」と発音するのが一般的である。よって、もの凄く厳密に言うと、ブライダルを翻訳しても「結婚」にはならない。  最近よく耳にする「マリアージュ」というフレーズも、やはり「結婚」を意味するフランス語らしく、発音こそは違うものの、スペルは英語とほぼ同じで、「r」が一文字少なくなるだけだ。  ちなみに、マリッジの語源はフランス語のマリアージュなんだそうで、語感や響きが良いからか何だか知らないが、最近は結婚プロデュース会社も、積極的にフランス語の方を用いるところが増えてきた。  まぁ、英仏どっちの言葉で表そうが、かつての俺には関係のない話だったんだけれど、とにかく日本において、よく見聞きする言葉を翻訳すると、どちらも結婚という意味になる。  うーむ、やっぱり思い出せない。ブライドとブライダルって、一体何だったんだろ?  ――っと、いかんいかん。今はミオとデート中なんだった。物思いにふけるのは止めて、デートを楽しむ事に集中しなければ。  ブライドやらブライダルの意味は、実家に戻ってから、スマートフォンでじっくり調べ直すとしよう。     * 「ご注文を繰り返させていただきます。ハンバーグステーキ定食がお一つ、お子様ランチがお一つ。お飲み物は――」  書店を出て、気の向くままにアーケード商店街をブラついていると、あっという間に正午を迎えてしまった。  ちょうどいい感じで腹も減っていたので、俺たちは予定通り、お子様ランチを食わせてくれるレストランへと足を運び、他のお客さんでひしめく店内の合間を縫って窓際の席に座り、そして今しがた、各々が食べたい料理の注文を済ませ、後は料理が運ばれるのを待つだけとなった。  ここまでは計画通りだ。

ともだちにシェアしよう!