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49.初めてのお子様ランチ(10)

 案の定、ミオは俺が使った横文字の意味が分からないようで、困った顔のまま腕組みをして、視線を斜め上に向け、うーんと唸りながら考え込んでしまった。  そりゃあ、まだ駄菓子屋で、十円刻みで並べられたお菓子を値踏みする子供だし、突然リッチなんて言われてもピンと来ないよな。  それとも今日びは、お金持ちな人たちの事を、「リッチ」じゃなくて「セレブ」って言うのがスタンダードなのか?  でも、外国においてはセレブの元である「セレブリティー」の本来の意味は、「著名人」とか「有名人」だったりするわけで、その人の立場が善人だろうが悪人だろうが関係なく、とにかく名高い人を指す言葉なんだよなぁ。  日本では、とある時期からテレビや雑誌なんかで「セレブリティー」の略語として使い出して、いつの間にか、お金持ちとか富豪を示す言葉として広まってしまった。  その人や家庭が裕福である様を英語で言い表すなら「リッチ」の方が近いと思うんだけど、ミオあたりの世代じゃ、もう言わなくなっちゃったのかねぇ。 「ごめんごめん。リッチってのは、要するにお金持ちだって事だよ」 「そうなんだ。じゃあ、そのリッチなお家に入るでしょ? レニィ君のとこも」 「あ。そうだな。確かにあの双子のご両親は、考古学者の夫婦で結構儲かっているって話を聞いたような」 「だよね。そんなにお金持ちなのに、すまーとふぉんを兄弟で一台しか持たせてもらってないのって、何だか変じゃない?」 「うーん。ミオの言う事は、だいたいにおいて正しいと思うよ。ただ、あの子たちは他の子らとは、価値観が違うかも知れないだろ?」 「価値観? それってどういう意味?」  ミオは耳慣れない言葉が出てくると、その場で意味を考え込むか、すぐに聞き返すかのどちらかを選ぶ。  それは、ミオがこの先の長い人生を歩むにあたり、今すぐ身に付けておきたい、と思うほど大切な事だと判断するから、そうするのである。  ちなみにミオの傾向として、英語を代表とする横文字では、前者の方が多い。横文字のような気はするけれど、自分が学習した日本語の引き出しから、似たような発音の文字がないかと、必死で記憶を辿っているのだそうだ。 「平たく言うと〝ものの大事さ〟って意味だよ。例えば、ミオが本屋さんで買った、プリティクッキーの漫画本はとっても大切だけど、海賊三国志の本はそうでもないだろ?」 「うん!」  今のがよほど分かりやすい例えだったのか、ミオは明るい笑顔で大きく頷き、一時(いっとき)の間も置かずに即答した。

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