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49.初めてのお子様ランチ(11)

 引き合いに出された、コミカライズ版の海賊三国志には気の毒だが、俺は漫画には詳しくないので、ミオたちの世代にもピンと来る、比較対象が他に思い浮かばなかったんだ。すまん。 「それがミオの価値観ってやつさ。で、ここから先は仮の話になるけど、その価値観ってのは人それぞれで、もちろんレニィ君たちも持っているだろうし。他の人とは異なるのは、まず間違いないだろうな」  俺の話を食い入るように聞いていたミオは、小声で「価値観……」と呟きながら、その言葉がどんな時に使われるのか、徐々に理解しつつあるようだった。  こんな時でも、一を聞いて十を知る努力を欠かさないのは、ミオ自身が持つ知的探究心を満たすと同時に、今すぐにでもその言葉の用法を間違えず、自分のものにしたい思惑があるのだろう。  里親の欲目というわけでもないが、この子が積み重ねた努力の結晶や、知識の吸収力、そして大好きな魚釣りで証明した、ミオ自身の天性の才能などを見たり聞いたりすると、やはりこの子は神童だと思う。  とは言ったものの、さすがにミオが異世界転生したライトノベルの主人公のような、特殊能力を得て八面六臂(はちめんろっぴ)の働きができるのかと言うと、決してそういうわけではない。  運動は苦手だし、見聞きした英単語も間違って覚えるから、誤った知識を披露して恥をかく危険性も内包しているため、手放しにこの子は、「末は博士か大臣か」なーんて、楽観視や希望的観測ができないのである。  でも、それでいいんだ。  この世に生を受け、あらゆる知識を吸収してきたとて、人間である以上、大なり小なり間違いを起こす。誰もが完璧じゃあないんだからね。  親子であり、恋人同士でもある俺たちが、お互いを支え合い、足りない部分を補っていく事で、初めて、完璧に近づける事ができるんだと俺は思うのである。 「小難しい事を言っちゃったけど、つまり、だ。スマートフォンに対して、あの子たちはそんなに必要なものじゃないと思っているかも? って仮説が立てられるんだよ」 「なるほどー。あんまり使わないから、二人で一つでいいって思っちゃったんだね」 「あくまで仮説だから、俺も断言はできないんだけどな。でも、そういう方向で推測すれば、お金持ちのお家だからって、一人一台じゃないと変だって思わなくなるじゃん?」 「うんうん。確かにそうだねー」  俺の立てた仮説……というか、どちらかと言うと当て推量なんだけど、よほど説得力があると思ったのか、ミオは合点がいった様子で、何度も頷くのだった。

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