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49.初めてのお子様ランチ(12)

 これで弟のユニィ君もスマートフォンを持っていたら、俺はとんでもないホラ吹き野郎だという事になりかねないのだが、あくまで〝仮説〟という保険を掛けているからね。  自慢にも何にもならない、セコい手段ではあるが、これが逃げ方を心得た大人による、言い回しを駆使した論法というものだ。  もっとも、俺の大切な里子で、世界一愛している彼女のミオをだましたり、言い逃れをするつもりは毛頭ない。  確かに逃げ道こそ作ったが、そっちへ行ってもミオの期待を裏切るだけで、誰も幸せにはできないだろう。二十七歳にもなれば、そのくらいの事は言われなくても分かる。  だから、さっきの「価値観の違い」という当て推量が外れたら、俺は素直に、自分のポンコツぶりを詫びようと思っている。 「お待たせ致しました。こちら、お子様ランチになります」  レニィ君たちの話が一段落してすぐ、ウエイトレスさんが、レストランカートに乗せた、俺たち二人分の料理を運んできた。  ミオが食べるのはもちろん、ワンプレートにあらゆるおかずが盛り付けられた、おまけ付きのお子様ランチ。そして俺は、重さが二百グラムある、ハンバーグステーキの定食を頼んだ。  こういう焼き立ての肉料理は、温度が命だ。だからたいていのレストランでは、熱した鉄板の上に肉料理を盛って運んでくるのだが、あまりに高温なため、ソースだの肉汁だのが思わぬ方向に弾け飛んできて、最悪ヤケドをするおそれがある。  そういうトラブルを防ぐために、このレストランでは、鉄板に乗せられた焼き立ての肉料理がテーブルに置かれたら、プレートの下に敷かれた紙のテーブルマットを折り曲げて起こし、肉汁やら油のハネを防ぎ、安全を確保する手段が用意されている。 「わぁ。お兄ちゃんのハンバーグ、バチバチ音がするねー」 「な。食欲をそそる良い音だろ?」 「うん。ハンバーグにかけてある、ソースの焦げた匂いが、すっごくおいしそうだよ」 「間違いないな。白飯のといい、某ドリアのチーズといい、そしてこのデミグラスソースといい、焦げたやつはやたらとうまいんだ」  余談だが、俺が少年時代、とある漫画雑誌のコラムにて、「焼き魚の焦げた皮には発ガン物質が含まれる」と書いてあったのを読んで、怖気(おぞけ)を震った記憶がある。  で、社会人になって、勤め先の同僚である佐藤にこの話をしたところ、「お前、焼き魚の皮だけ何キロ食べるつもりやねん」と冷静に突っ込まれ、それ以降は一切気にしなくなった。  そりゃ焦がさないに越したことはないんだろうが、飯の味を忘れるほど神経質になりすぎたら、今度は心を病みそうになるから。

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