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49.初めてのお子様ランチ(13)
「ねぇ。お兄ちゃんが今、ハンバーグを紙で囲んでるのって、お肉が弾け飛んだりするのを受け止めるためにやってるんでしょ?」
「はは、さすがに肉は飛ばないかな。でも、その肉から溢れ出てきた肉汁やら油やらが、熱々の鉄板からあちこちに跳ねる危険性があるんだよ」
「へぇー。それ、すっごく熱そうだね」
「まぁな。運が悪いとヤケドして、痕が残りかねないから、こうやってミオと俺を守っているってわけさ」
「そうなんだ。ありがとね、お兄ちゃん!」
ハンバーグを包む紙の切れ間から、ミオの優しい笑顔が覗く。はぁ、何て屈託のない表情なんだ。今更こんな事を言うのは何だけど、この子は彼女として百点満点だよな。
そんな百点満点なショタっ娘ちゃんの方に、肉汁やソースを跳ね飛ばすわけには行かない。ある程度熱が冷め、安全が確保できるまで、俺の食事はお預けだ。
――ところで、このテーブルマットを立てるという手法だが、開店当初こそは、熱した鉄板への注意をするだけに留めていたらしい。
だが、事は、とある日の昼食の時間に起きた。肉料理を頼んだ常連のお客さんたちは、各々が持ち込んだ、雑誌やら新聞紙を立てて、自主的に油やソースの跳ねを防ぎ始めたのである。
その様子を遠間から見ていたウエイトレスさんの、あまりの申し訳なさで感情が爆発した結果、コック長を兼任する店長さんに、私たちで油跳ねを防ぐ方法を用意しましょう、と提案したのだそうだ。
そこからあらゆる試行錯誤を重ね、現在のような、店舗のフェアやキャンペーン告知も兼ねた、紙製のテーブルマットが完成したんだよ、という話を聞いたのが、俺がまだガキンチョだった頃のことである。
この店が最初にやり始めたわけではないにしても、とにかくこれ一枚でお店の新メニューなども分かるし、熱々の料理からヤケドを防ぐ事もできるから、一石二鳥だよな。
こういう防御手段の無いお店って、どうやってお客さんを守っているんだろう。単純に注意喚起だけかな?
百歩譲って熱い思いをするのは我慢できるけど、肉汁やらステーキソースやらが、一張羅に跳ね飛んでシミになると落とすのに難儀するから、肉料理やカレーうどんを食する時は、ナプキンを首から掛けておいた方がいいかも知れない。
ちなみに、世間的に格式が高いと評価を受けたレストランのテーブルマナーにおいては、ナプキンを首から掛けるのはご法度な行為であり、着席後、膝の上に乗せて食事に臨むのが正しい所作だとされる。
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