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49.初めてのお子様ランチ(16)
もともとミオが少食だから、というのもあって、エビフライをおすそ分けしようと考えたのかも知れないが、おいしいものを二人で共有したいと思うのは、まごうことなき恋人の愛情によるものだろう。
「じゃあ、遠慮なく貰うよ。ありがとな」
「うん、貰ってぇ。ボクのお皿、いっぱいご飯が乗ってるから、全部食べ切れるように頑張るからねっ」
ミオは両手にフォークとスプーンを握り、プレートに盛られた美味しそうな料理の数々に目を輝かせている。
ちなみにミオが頼んだお子様ランチには、さっき一本、もとい、一尾もらったエビフライの他に、ミニハンバーグやスパゲッティ、日本の国旗が立てられたオムライス、サラダ、そしてマグカップに注がれたコーンスープなどが、所狭しと盛り付けられている。
そんなお子様ランチのデザートは、生クリームとサクランボが乗った小さなプリンで、こちらは別の器にて運ばれてきた。
まぁ、さすがにワンプレートが売りだとは言っても、デミグラスソースやタルタルソースがプリンに跳ねて混じってしまったら、せっかくの甘みがフイになっちゃうからね。
「さーて、油跳ねも落ち着いたし、食べるとするか」
「そだね。いただきまーす!」
俺が食べられるようになるまで待っててくれていたミオは、真っ先に目についた旗付きのオムライスに、そっとスプーンを差し込んでいく。
その様子から推測するに、どうやらこの子は、オムライスの頂上に立てられた、爪楊枝製の国旗を倒さないよう、慎重な山崩しを試みているようだ。
ゲーム感覚としてなのか、単純にそういうルールだと思い込んでなのかは分からないが、とにかく今のところ、旗をどかすという発想は無いらしい。
「ミオのオムライス、ケチャップじゃないんだな」
「え? なぁに?」
湯気が立つほどほかほかなオムライスの山を、少しずつスプーンですくっている最中のミオは、そっちに集中力するがあまり、俺の話を聞き取れなかったようである。
「いや、ほら、ソースの事だよ。ミオのオムライスの周りには、ケチャップじゃなくて、デミグラスソースをかけてあるじゃん」
「……んん? あ、ほんとだ。下は赤くなーい。これがデミグラスソースって言うんだね」
「そういやミオ、デミグラスソースは初めてだったっけ?」
「たぶん初めてだよー。施設のご飯でオムライスを食べる時は、いつもケチャップが置かれてて、皆、自分で好きなだけかけて食べてたの」
「へぇ。じゃあ、そのケチャップを使って、何かの模様を描いて遊んだりとかもやった?」
「うん! ボクはいつも、カタカナで『オム』って書いて食べてたんだー」
自分の遊び心を明かすミオは、かつて自分が育てられてきた児童養護施設での食卓を思い返し、ノスタルジアに浸っているようだった。
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