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49.初めてのお子様ランチ(19)

「何だったかな? ソースは分かるんだけど、デミグラスの意味までは調べた事ないや」 「そうなんだ。お兄ちゃんでも知らない事があるの、意外だねー」 「はは、まぁね。他の人より雑学には詳しいという自負はあるんだけれど、飲食業界じゃあ、全くの門外漢だからな」 「モンガイカン? なぁにそれ?」 「簡単に言うと、とある作業とか仕事みたいな専門業に対して、全く畑違いのところにいる人のことを指すんだけど、今の説明で分かる?」 「むむー。何となくだけど、意味が分かったような気がするー。お兄ちゃんはコックさんとは別の仕事をしているから、お料理には詳しくないって事でしょ?」 「その通り! さすがはミオ、お利口さんだから察しが良いね。今の答えは百点満点だよ」  俺がそう言って親指を立てると、ミオは嬉し恥ずかしという感じの、照れくさそうな笑顔を見せてくれた。 「でも、デミグラスの意味は全然分かんないね。ひょっとして、英語じゃないのかなぁ?」 「うーん。この話がヒントになるかどうか分からないけど、以前行ったメイド喫茶では、『ドミグラスハンバーグセット』って書いてあったんだ」 「それって、別のソースだったって事?」 「いや、ここのソースとほぼ同じ味だったよ。つまりデミグラスには、ドミグラスと二通りの呼び方があるって事だな」 「ふーん。変なの」  なかなか真相にたどり着かないわ、食事の手を止めたから料理の熱が冷めそうだわで、気を揉んでいるのは俺だけではない。ミオは一旦考える事をやめ、デミグラス、あるいはドミグラスソースのかかったミニハンバーグを再び食べ進め始めた。  今すぐに知識を得ようと思えば叶うのかも知れないが、ご飯を食べながら、スマートフォンを片手に調べ物をするのは、さすがにマナーが悪い。  なので、デミグラスソースの名前の由来を突き止めるのは、食事を終えてからにしよう。 「ごめんなミオ。後でちゃんと調べるから」 「んーん、いいの。ボクの方こそ、いつもお兄ちゃんに頼っちゃってごめんね」  スポンジのように、あらゆる知識を吸収する年頃のミオは、好奇心や、知的探究心が強い。  だからこそ、ミオが自力では調べきれない謎や、「なぜ?」、「どうして?」といった疑問に対し、キッチリ裏を取った上で答えを教えたり、知識を授けてあげるのは、ミオの里親になる事を申し出て、最もそばにいる事を誓った俺の役目であるし、使命でもあると思うのだ。  だというのに、この子はそんな俺を気遣ってくれた。現世に天使が実在するのなら、その正体は間違いなく、ここにいるミオだろう。

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