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49.初めてのお子様ランチ(20)

 たったの一文字、ミグラスとミグラスで名称が統一しないのは、さっき立ち寄った書店にて浮上した、マリッジとマリアージュの違いにも通じるような気がする。  意味合いは一緒でも、言葉だけわずかに違う。  かようなケースは日本語においても往々にしてある事だが、その違いを見分け、聞き分け、そして理解できるのは、それが母国語だからである。  その母国語に加えて、どこから渡来してきたのかも知らない言葉の発音や綴り、そして意味が違うことまで覚えなさいというのは、さすがに酷じゃあないかと思うのだ。  なんであのメイド喫茶は、ドミグラスハンバーグという名称に決めたのだろう。オシャレ感を演出したかったのかな?  意図するところは分からないが、とにかくこんなややこしい事になったのも、巡り巡って結局は佐藤のせいだ。なぜなら、ドミグラスの店に俺を引っ張っていったのは、誰あろう佐藤だからである。  確かに飯はうまかったけど。  ただ、ソースの由来なんてどこ吹く風とばかりに、メイドの女の子を口説き落とす事にうつつを抜かし、頼んだ料理にもほとんど手をつけなかったんだから、あいつの女好きは筋金入りだと思う。  きっと佐藤は、メイド喫茶を、ガールズバーやキャバクラの一種か何かだと勘違いしていたんだろう。  今はミオという最高の恋人がいるからいいけど、あの時の俺に足りていなかったのは、そういった、空腹じゃない方の「ハングリーさ」なのかも知れないな。 「ねぇねぇお兄ちゃん」 「ん? 何かな?」 「さっきお兄ちゃんが言ってた、『めいどきっさ』ってなぁに?」 「え……」  まずった。こいつはとんだヤブヘビだ!  ソースの呼び方に気を取られたせいで、ついうっかり、俺が過去、メイド喫茶に通った事を普通に口走ってしまった。  どうしよう。メイド喫茶がどんな店なのかを正直に話したら、俺が女遊びをしているんじゃないかと疑われそうだな。  でもまぁ、このくらいなら明かしてもいいか。実際に遊んでいたのは佐藤の方で、俺はハンバーグセットとパフェを食って満足しただけの、恋愛に関しては典型的な草食系だったんだし。 「そうだなぁ。メイド喫茶ってのは、一言で説明すると、メイドさんが働く喫茶店みたいなもんだよ」 「メイドさん? ボク、そのお仕事は聞いたことないよー。何それ?」  た、助かった!? 全く耳にした事がないのが幸いした……というのも何だが、とにかくミオは、首を傾げて聞き返してきた。  よくよく考えたら無理もないのか。よっぽどの大富豪か貴族の子供でもなけりゃ、普通は縁がない職業だよな。

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