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49.初めてのお子様ランチ(22)
「あこがれ?」
「うん。例えばメイドさんの服装だったり、雇い主である『ご主人様』へお仕えする姿勢に惹かれて、自分もご主人様になりたい! って思う人が増えてきたんだね」
「そうなんだ。じゃあメイド喫茶は、ご主人様になりたい人が行くお店……ってことで合ってる?」
「大体において合ってるよ。メイド喫茶をもっと専門的な用語で言い表すなら、お客さんは、メイドさんにご奉仕してもらう、ご主人様の立場を疑似体験しに行くためのお店、ってとこかな」
「わぁ。難しい言葉がいっぱいだねー」
あまりにもディープな世界すぎるがあまり、理解が追いつかない様子のミオは、一旦、考える事から離れ、止まっていた食事の手を再び動かし始めた。
まだホクホクで、タルタルソースがたっぷりかかったエビフライを口に運び、幸せそうな顔で、少しずつ食べ進めていく。
猫にナマモノの甲殻類はご法度なのだが、うちの子猫ちゃんは、食える魚介類なら何でもおいしくいただく子なので、当然エビフライも大好物なわけだ。
うまいものを食って、満ち溢れる幸福感に浸り、脳を休ませるのは大切な事である。
俺は俺なりに、できるだけメイド喫茶が何なのかを噛み砕いて説明したつもりだったんだけど、そりゃあ分からないよな。いきなり「ご奉仕」なんて言われても、一般人には馴染みがない言葉なんだから。
メイド喫茶、あるいはメイドカフェとも呼ばれる手合いのお店が放つ魅力を理解するには、まず、メイドそのものの魅力を知らなければ、普通はピンと来ない。
一口で「メイドさん萌え」と言ってしまえば、たいていは片がつく場面なんだけれども、うちのショタっ娘ちゃんにはまず通用しないだろう。
まだ十歳の純粋な少年に、見たことも聞いたこともない、オタク要素の強い俗語 で説明を試みて、理解しろと言うのはあまりにも酷な話である。
万が一、俺がそんな無理強いを試みたとしても、ミオはますます困惑して、うーんと唸って考え込んでしまうのが関の山だ。それでは何の解決にもならない。
「とにかく、だ。メイド喫茶、もしくはメイドカフェと銘打ったお店に好んで通う人たちは、ご主人様になり切りに行きたいのさ。なぜなら、憧れのメイドさんとして働く、かわいい女の子たちにチヤホヤされたいからね」
「んん!? ふーん……そうなんだ」
エビフライを食べ終えたばかりのミオは、それだけ言うと、猜疑心 に満ち溢れた眼差しで、俺の顔をジトーッと見つめ始めた。
「あ、あはは。俺はそんなんじゃないんだよ。あの佐藤に誘われて、たった一回きり、飯を食いに行っただけなんだから」
おのれ、アホの佐藤めー。あいつが今、どこで誰の尻を追っかけ回しているのか知らないが、こっちはお前のせいで、盛大なヤブヘビ祭りを開催中だよ。
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