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49.初めてのお子様ランチ(23)

 ……ま、こういう流れになるのは仕方ないよな。  男がメイド喫茶に通う理由として、「女の子にチヤホヤされたいから」だなんて説明されて、現在の彼女であるショタっ娘のミオが、俺に対して疑いの目を向けるのは、ごく自然な反応だろう。  逆の立場なら、きっと俺だってそうする。  あえて言い訳をさせてもらうならば、俺が佐藤に誘われ、メイド喫茶に通ったのは確かに事実だが、それはあくまで、ミオと再会する前の話である。  さらに付け加えるなら、俺は飯とデザートの注文を告げた以外に、フリフリ衣装のメイドさんたちとは一切会話できなかった。よって今回の一件は、浮気には該当しないと言い切れる自信がある。  ただ、その詳細を知らなければ、ミオが俺に対して疑いを抱くのも無理はない。何しろこの子にとっては、俺がその気になれば、女の子の一人や二人は口説き落とせる男のように見えているのだから。  ミオがそう思う根拠として、先月、二人で泊まりに行ったリゾートホテルにて、偶然知り合った双子のショタっ娘ちゃんたちに懐かれた日の事が、色濃く印象に残っているのかも知れない。  ミオと暮らし続けていれば分かるが、普通の女の子と、限りなく女の子に近いショタっ娘の違いだなんて、微差でしかないんだからね。  問題なのは、その微差が云々という以前に、メイドさんと全くいい仲になれなかった、あの時の意気地の無さなんだよな。  お店でメイドさん……になり切っている子たちのノリやテンションに気圧《けお》され、終始ご主人様の役に徹していた佐藤に対応を任せ、飯だけ食って帰っちゃったんだから、さぞや手のかからない良客だったと思うよ、俺は。  もっとも、そんな体たらくだったからこそ、こうしてミオという最高の恋人と出逢い、当時の状況を正直に打ち明けられているんだけれども。 「――じゃあ、お兄ちゃんはメイドさんと、何にもお話しなかったの?」 「うん。一応、店を出る時に『ごちそうさま』とは言ったけど、それも、まんま大衆食堂で飯を食った時と同じ調子でさ。まず、メイドさんと仲良くなる、という発想に行き着かなかったんだ」 「へぇー」  あまりにもバカ正直に、腰の引けた自分をさらけ出したのが奏功したのか、ミオは納得した様子で、フォークを使って、ナポリタン風のスパゲッティをくるくる巻き取り始めた。  まだ十歳やそこらの子に、大衆食堂を例えに出して分かってもらえるのか。そこまで考えが至らず喋ってしまったが、食堂という単語を含んでいたのもあって、お利口さんなミオは、言葉の意味を何となく理解したようだ。  俺の申し開きを信じ、安心して食事に専念できると思ったミオの顔が、お子様ランチの豊富なメニューに心を弾ませる、純粋な少年のそれへと戻っていた事こそが、何よりの証拠だろう。

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